閑話:エルシンポリア1~千夜とユウマ~
エルシンポリアの広場は、深夜になるとひっそりと静まり返る。旗は夜風に揺れ、灯りは控えめにともされている。町の人々が眠りについた後も、ユウマは夜警として広場を見守っていた。
その横に、ふっと千夜が歩み寄ってくる。もう「呼び出された存在」ではなく、町に住む一人の住人として。
「……ここは静かでいいね。」 千夜はベンチに腰掛け、夜空を見上げる。肩の力が抜けたような、素の声だった。
ユウマは頷き、穏やかに答える。 「ここでは肩書きも役割もいらない。ただ町の一員として過ごせばいい。」
千夜は少し笑みを浮かべる。 「そうか……それなら、少し眠ってもいいかな。夜の町を見守るのは、あなたに任せても。」
ユウマは旗を見上げながら静かに言う。 「任せてくれ。訪問者が少なくても、足跡は確かに残っている。町は歩みを続けている。」
千夜は目を閉じ、夜風に身を委ねる。 「……未来の町で、こんなふうに素直でいられるなんて。悪くないね。」
広場には静けさが満ち、旗が揺れる音だけが響いていた。深夜のエルシンポリアは、役割から解放された千夜の素顔を優しく包み込んでいた。




