ep.30 焼き団子の風
町の通りに漂う甘い香りに誘われて、ユウマたちは小さな団子屋の前に立ち止まった。 店主はにこやかに笑い、彼らを迎え入れる。 「焼きは扱ってないけど、挑戦してみるかい?」
果林が目を輝かせる。 「やってみよう!」
咲姫はしっぽをふりふりしながら火を灯した。 団子は、あっという間に真っ黒になった。 「焦げすぎなのです!」
果林は風を操って火加減を整えようとする。 団子は半分だけ焼けて、もう半分は白いまま。 「惜しいね」と店主が笑う。
紗綾は札をかざして、じんわり温める。 団子は柔らかくなったが、焼き目はつかない。 「優しいけど、焼き団子じゃないね」と果林が肩をすくめる。
ユウマはその様子を見て、思わず口にした。 「僕も……できるかな?」
三人娘が声をそろえる。 「やってみたら?」
ユウマは深呼吸して、魔法を放った。 団子が爆ぜて、天井に張り付く。 風が強すぎて、団子が飛んで咲姫のしっぽに直撃。
「しっぽが焦げるのです!」と咲姫が大騒ぎ。
店主は笑いながら、焦げた団子を取り外す。 「旅は厳しいもんだ。でも、挑戦するのはいいことだよ」
何度か挑戦を繰り返すうちに、ユウマの団子はようやくほんのり焦げ目をまとった。 香ばしい香りが風に乗り、店の中に広がる。
「やったね!」三人娘が声をあげる。 ユウマは団子を見つめて、静かに言った。 「僕にも……できたんだ」
焼き団子の香りは、札場で感じた問いの風と重なっていた。 旅は厳しい。けれど、人の温かさと風が、きっと支えてくれる。
――
その後、店主は昔話をしてくれた。 「若い頃は俺も旅をしたもんだ。寒い夜に焚き火を囲んで、仲間と団子を焼いたことがある。焦げても笑って食べた。そういう時間が、旅を支えてくれるんだよ」
町の子どもたちが集まってきて、ユウマの焼いた団子を見て笑った。 「お兄ちゃんの団子、ちょっと焦げてる!」 「でもいい匂い!」
ユウマは少し恥ずかしそうに笑った。 「まだまだだね。でも、次はもっと上手くやるよ」
三人娘はその言葉にうなずいた。 「団子のときよりは進歩してるね」 「失敗しても挑戦するのが大事なのです」 「問いの風も、こうして形になるのね」
団子を食べると、外は冷たい風が吹いていた。 けれど、店の中は温かく、団子の香りと人の笑顔が満ちていた。 ユウマはその温かさを胸に刻んだ。
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旅の厳しさと町の人の温かさ。 その対比が、ユウマの心に深く残った。 そしてその風は、次の旅立ちへとつながっていく。
最後まで読んでくださって、ありがとうなのです〜 感想やアドバイス、そっといただけたら嬉しいのです。 ★やリアクションで応援してもらえると、咲姫のしっぽがぽわぽわ揺れるのです〜 のんびり更新ですが、これからもよろしくお願いしますのですっ!




