ドキッ!!閑話:前夜の静けさ
広場の夜は、昼間の賑わいをすっかり失い、月明かりとクリスマスの灯りだけが石畳を照らしていた。昼間は子どもたちの笑い声が響き渡っていた場所も、今は静けさに包まれ、遠くから聞こえる鐘の音が夜の空気を柔らかく震わせている。旗は月光を受けて淡く揺れ、まるで町全体の心臓の鼓動を映すかのように、静かに、しかし確かに存在を示していた。
そんな広場に、二人の影が並んで立っていた。互いに言葉を交わすわけでもなく、ただ旗を見上げている。クリスマス前夜の特別な空気が、二人の間に甘い沈黙を生み出していた。未来があるのか、ないのか。そんな問いが、夜風に混じって心の奥に忍び込む。けれど、その問いは決して重くはなく、むしろ少しだけ胸をくすぐるような甘やかさを持っていた。
「この先も、一緒にいられるのだろうか。」 そんな想いが、ふと心に浮かぶ。答えは誰にも分からない。けれど、月明かりに照らされた旗は、その揺らぎを静かに見守っているように見えた。
町の灯りは少しずつ消えていく。パン屋の窯の余熱がまだ残り、果物の甘い匂いが市場から漂ってくる。昼間の匂いが夜に溶け込み、二人の沈黙を優しく包み込む。未来があるかないか分からない想いは、夜風とともに広場を巡り、旗の翻りに重なっていく。
やがて、遠くで笑い声がひとつ響いた。誰かがクリスマスの準備をしているのだろう。小さな灯りが窓辺に揺れ、広場の静けさにほんのり甘い彩りを添える。その瞬間、旗は大きく揺れ、まるで二人の心に応えるように未来への道を示していた。
夜は深まり、広場はさらに静けさを増す。けれど、その静けさは決して孤独ではなく、むしろ「これからの可能性」を優しく抱きしめるような温かさを持っていた。未来があるかないか分からない恋の予感は、クリスマス前夜の特別な空気に溶け込み、旗とともに夜を見守り続けていた。




