表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
第一幕~序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/197

ep.4 札所の帳と修徒の名

はじめまして。 異世界転生ものを書いてみたくて、思い切って投稿してみました。 魔法が使えるようになる話ですが、いきなり強くなったりはしません。 ちょっとずつ、言葉を覚えて、魔法を学んでいく感じのゆるい成長物語です。 初心者ですが、楽しんでもらえたらうれしいです!

社の空気を胸に残したまま、俺は猫影茶屋を後にした。 焙じ茶の香りがまだ鼻の奥に残っていて、風が頬を撫でるたびに、あの静かな祈りの場が少しずつ遠ざかっていくのがわかった。


「……あれが、猫神様の声……?」


言葉にはならない。 でも、胸の奥に残る“響き”は確かにあった。 音でも意味でもなくて、ただ“感じる”もの。 巫女の祈りと、あの鈴の音が、俺の中に何かを残していった。


「こっち。受付、済ませとこうか」


ミナが先を歩きながら、振り返って声をかけてくる。 その背中は軽やかで、さっきまでの神秘的な空気とはまるで違っていた。 でも、俺の胸の奥には、まだあの白装束の巫女の言葉が残っていた。


“素養は、まだ揺らいでいます”


意味はわからない。 けれど、あのとき感じた胸の奥の揺らぎは、今も消えていない。 それは、猫神様の“沈黙”が残した余韻のようだった。


札所は、町の一角にある木造の建物だった。 外から見ると質素だけど、柱には猫神様の印が彫られていて、どこか神聖な気配が漂っていた。 入口には札が吊るされていて、風に揺れるたびに、まるで依頼そのものが風に乗って届いてくるようだった。


中に入ると、木のカウンターと札棚が並んでいて、壁にはびっしりと依頼札が貼られていた。 墨で書かれた札には、報酬額と内容が記されていて、どれも現実的で、ちょっと泥臭い。 魔物退治、薬草採取、荷運び、猫神社の掃除――この世界の“日常”が、そこにはあった。


受付には中年の男性が座っていて、帳面を広げて筆を走らせていた。 ミナが一歩前に出て、はっきりと声をかける。


「新規登録。転生者。名前は悠真」


男性は筆を止めて、俺をちらりと見た。 その視線は鋭いけど、どこか慣れているようでもあった。


「素養は?」


「Oralis理解、反応あり。まだ微弱だけどね」


「ふむ……」


短くうなずいて、また筆が走る。 墨の香りがふわっと漂ってきて、その音と匂いに、なぜか少しだけ落ち着きを覚えた。


「修徒帳、発行するよ。初徒扱い。依頼は札場で確認してくれ」


手渡された帳を見つめる。 木の表紙には、猫の爪痕みたいな模様が刻まれていて、触れると指先にざらりとした感触が残った。 それは、ただの帳面じゃなかった。 この世界で生きるための“名札”であり、“証”だった。


「これが……修徒帳?」


「そう。あんたは今日から修徒士。飯代くらいは稼げるよ」


ミナがそう言って笑った。 その笑顔は、さっきの巫女の静けさと対照的で、俺は少しだけ安心した。 この世界には、神秘と現実が混ざり合っている。 その両方を受け入れていくことが、きっと“生きる”ってことなんだろう。


受付を終えて、札場へ向かう途中。 俺は帳を胸に抱えながら、ふと茶屋の方を振り返った。


障子の奥に、白い装束の影が見えた気がした。 ほんの一瞬。 風が吹いて、湯気が揺れて、影はすぐに流されて消えた。


でも、胸の奥には、確かに“響き”が残っていた。 それは言葉じゃない。 でも、猫神様がそっと通り過ぎたような、そんな気配だった。


そして、帳の表紙に刻まれた爪痕が、ほんのわずかに温かく感じられた。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました!

異世界転生もの恒例?の冒険者ギルドです。

感想やアドバイスなど、いただけたらとても励みになります。 これからも、のんびり続けていきますので、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ