ep.22 印と風のゆくえ
祠を離れて、坂を少し下ったところで、 風がふっと、ざわついた。
「……風の音、変わったのです」
咲姫が立ち止まる。 猫耳飾りが、風に合わせて揺れていた。
「札帳、見てみて」
紗綾がそっと札帳を開く。 そこには、見たことのない印が浮かんでいた。
「……これ、何?」
印は、円でも四角でもなく、 どこか“動いている”ような形。 墨のにじみみたいに、境界が曖昧だった。
「猫神様の“試練”なのです!」
咲姫が前のめりになる。 けれど、紗綾は筆を持ったまま、動かさない。
「札帳が、自動で印をつけるなんて……初めて」
「じゃあ、これは“風の外”の札なのです!」
果林は、串をくるくる回しながら言った。
「風の外?」
「うん。風が案内してくれない札。 でも、団子は持ってるから大丈夫」
「それ、関係あるのですか?」
「あると思う。たぶん」
少し後ろで、主人公とミナが印を見つめていた。
「……この形、見たことある気がする」
「わたしも。でも、どこだったか思い出せない」
風が、印の上をなでるように吹いた。 その瞬間、印が少しだけ揺れた。
「動いてる?」
「うん。でも、揺れてるだけ。 場所を示してるわけじゃない」
「じゃあ、次の札は……まだ見えてない」
「うん。でも、風がざわついてる。 何かが、近づいてる」
三人娘は、印を囲んでしゃがみ込んでいた。
「この印、猫神様の“遊び心”なのです!」
「でも、札帳が反応してるってことは、 何か意味があるはず」
「意味は、風が教えてくれるのです!」
「でも、風が止まってるよ?」
「それは……猫神様が考え中なのです!」
果林は、串をそっと地面に置いた。
「じゃあ、団子も考え中」
「団子はいつも考えてないのです!」
「うん。でも、香りは残ってる」
風が、また少しだけ動いた。 印は、揺れながら、少しだけ薄くなった。
「……消えそう?」
「ううん。変わろうとしてる」
「じゃあ、次の札は“変化の札”なのです!」
「……これ、“次の風”の前触れじゃない?」
ミナがぽつりとつぶやいた。 主人公は、印を見つめたまま、うなずいた。
「うん。風の流れが、変わりはじめてる」
最後まで読んでくださって、ありがとうなのです〜 感想やアドバイス、そっといただけたら嬉しいのです。 ★やリアクションで応援してもらえると、咲姫のしっぽがぽわぽわ揺れるのです〜 のんびり更新ですが、これからもよろしくお願いしますのですっ!




