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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
1章

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ep.21_祠と忘れられた札

坂をのぼりきった先、 風がふっと止まった。


そこにあったのは、小さな祠。 石の土台に、苔がうすく張りついていて、 屋根の木は少しだけ傾いていた。


「……ここ、札所じゃないのですか?」


咲姫が立ち止まる。 猫耳飾りが、風の名残でかすかに揺れていた。


「札帳、反応してない」


紗綾がそっと開いた札帳は、静かなまま。 紙の端も、風に揺れない。


「でも、気配はあるのです」


咲姫が祠の前にしゃがみこむ。 その足元に、古びた札が一枚、落ちていた。


「……これ、誰かが置いたまま?」


果林が近づいて、しゃがむ。 札は少し湿っていて、角が丸まっていた。


「文字、かすれてる」


「読めないのです……でも、猫の匂いがするのです」


「ほんとに?」


「たぶん、団子の匂いと混ざってるのです!」


「それ、気配じゃなくて食欲じゃない?」


「ううん、これは“記憶の匂い”なのです」


少し離れたところで、 主人公とミナは、祠を見つめていた。


「……ここ、前に来たことある気がする」


「うん。わたしも」


風が止まったまま、空気が少しだけ重たい。 でも、怖くはなかった。 むしろ、懐かしい。


「札帳が反応しないのは、  この札が“記録から外れてる”からかも」


紗綾がぽつりと言う。 筆は持ったまま、動かさない。


「じゃあ、これは“忘れられた札”なのです」


咲姫がそっと札を拾い上げる。 紙はふにゃりとしていて、でも、あたたかかった。


「団子、置いてみる?」


果林がポケットから、 ちょっとだけ残ってた串を取り出す。


「それ、非常用じゃなかったのですか?」


「うん。でも、こういう時のためにあるんだと思う」


串を祠の前に置くと、 風が、ひとすじだけ吹いた。


「……札、少しだけ光ったのです」


「うん。でも、すぐ消えた」


「気まぐれ札、よりも静かだったね」


「これは、“眠ってた札”なのです」


咲姫が札を胸に抱える。紗綾夜は筆を下ろし、そっと印をつけた。 果林は、串を見つめながら、 「また来ようね」とつぶやいた。


帰り道、風がまた吹きはじめた。 坂を下る途中、 主人公はふと振り返った。


祠の屋根の上に、 ふわりとしっぽが揺れた気がした。


「……見た?」


「うん。たぶん、モカ・ラテ」


「でも、もういない」


「うん。でも、気配は残ってる」

最後まで読んでくださって、ありがとうなのです〜 感想やアドバイス、そっといただけたら嬉しいのです。 ★やリアクションで応援してもらえると、咲姫のしっぽがぽわぽわ揺れるのです〜 のんびり更新ですが、これからもよろしくお願いしますのですっ!

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