ep.20 坂道と高い気配
北の坂道は、町の端にある。 石畳が少しずつ傾き、 登るにつれて、風の音が変わっていく。
「……風が、上から降りてくるのです」
咲姫が猫耳飾りを押さえながら言う。 その声は、どこか嬉しそうだった。
「坂道って、風の通り道になるんだよね」
紗綾が札帳を開きながら、足元を確かめる。 石畳の隙間には、落ち葉がいくつか挟まっていた。
「……登る前に、団子休憩したい」
果林がぽつりとつぶやく。 串をくるくる回しながら、坂の下を見上げていた。
「団子はさっき食べたのです!」
「でも、坂道ってお腹すくじゃん」
「それは……ちょっとわかるのです」
三人のやりとりを、少し後ろから見ていた主人公は、 ふと、坂の上に目をやった。
「……あの屋根、何かいる?」
ミナがつぶやく。 坂の途中、古い民家の屋根の上に、 小さな影が見えた気がした。
「猫神様なのです!」
咲姫が駆け出す。 けれど、影はすぐに消えた。
「……いなくなったのです」
「でも、風が残ってる」
紗綾が立ち止まり、札帳をそっと開く。 紙の端が、かすかに揺れていた。
「反応してる?」
「ううん。反応しかけて、やめた感じ」
「それは……気まぐれ札なのです!」
果林は、坂の途中で立ち止まり、 「団子屋、戻る?」と真顔で言った。
「戻らないのです!」
主人公は、屋根の上を見上げたまま、 何かを思い出そうとしていた。 あの影、あの風―― どこかで、似たものを見た気がする。
「……前にも、こんな風、あったよね」
ミナがぽつりと言う。 主人公は、うなずいた。
「うん。あの時も、猫の影を見た気がした」
「でも、誰も信じてくれなかった」
「今回は、咲姫たちが信じてる」
「……ちょっと、うらやましいかも」
坂の上では、咲姫が手を広げていた。
「猫神様、ここにいたのです! でも、今はもういないのです!」
「気配だけ、残ってる」
「うん。でも、それで十分なのです!」
紗綾は札帳に小さく印をつけた。 果林は、串をポケットにしまいながら、 「次は、どこ行くの?」と聞いた。
「風が、教えてくれるのです!」
坂の上から見下ろす町は、 どこか懐かしくて、少しだけ遠かった。 風が、三人娘の髪を揺らす。 その後ろで、主人公とミナも、 静かに風を感じていた。
「……あの猫、また現れるかな」
「うん。きっと、また“気まぐれ”に」
最後まで読んでくださって、ありがとうなのです〜 感想やアドバイス、そっといただけたら嬉しいのです。 ★やリアクションで応援してもらえると、咲姫のしっぽがぽわぽわ揺れるのです〜 のんびり更新ですが、これからもよろしくお願いしますのですっ!




