閑話「鍋」― 400PV記念回
「最近は野菜も肉も、なんでも値上がりしてるよなぁ……」 悠真がため息をつきながら、縁側に腰を下ろした。旅の途中で立ち寄った宿の夕餉を前に、財布の中身をちらりと見ては肩を落とす。
果林はそんな悠真を横目に、にやりと笑った。 「でもさ、笑いながら食べれば美味しいんだよ。値段なんて関係ない。今日は鍋にしよう!」
「鍋なのです!」咲姫がしっぽをぶんぶん振りながら飛び跳ねる。 「みんなでぐつぐつ煮れば、団子も入れられるのです!」
「団子は鍋に入れないだろ……」悠真が即座にツッコミを入れる。
紗綾は札帳を開き、さらさらと筆を走らせた。 「鍋は“寄せ集めの力”の象徴。高いとか安いとかではなく、持ち寄ったものを笑い合いながら食べることに意味があるわ」
女将が顔を覗かせる。 「大鍋ならあるよ。出汁も用意してあげるから、好きなものを持ち寄ってごらん」
果林は立ち上がり、団子の包みを抱えながら宣言した。 「よし、持ち寄り鍋だ! 野菜も肉も、団子も……そして酒も!」
悠真が苦笑する。 「結局、酒がメインじゃないか……」
――こうして、節目の夜に「持ち寄り鍋」が始まることになった。値上がりの世の中でも、笑いながら食べれば美味しい。そんな答えを探す宴が、今まさに始まろうとしていた。
翌朝からみんなは「鍋のための食材探し」に奔走していた。
果林は大きな籠を抱えて戻ってきた。中には白菜、大根、しいたけ……そしてしっかりと酒瓶が一本。 「やっぱり鍋には野菜と酒! これが基本だよ」 と胸を張る。
咲姫は両手いっぱいに団子を抱えて駆け込んできた。 「鍋に入れるのです! 甘いのも美味しいのです!」 悠真が慌てて止める。 「いや、それはデザート枠だろ……」
悠真は大きな包みを肩に担いで登場。中からは肉と魚がどっさり。 「力をつけるにはこれだ!」 と豪快に笑う。
紗綾は静かに香草や薬味を並べていく。 「風の記録に残すため、香りも大事なの」 と札帳を開き、食材の名前を一つひとつ書き留める。
女将は台所から顔を出し、大鍋をどんと置いた。 「出汁は用意してあるよ。あとは好きに入れなさい」
そして最後に、しれっと現れたのが――作者(読者)。手にしていたのは豆腐、ネギ、もやし。 「万能だから安心でしょ? 何にでも合うから鍋の土台になるんだ」 と笑いながら差し出す。
果林が酒瓶を掲げてにやりと笑う。 「豆腐は酒の肴にもぴったりだね。ネギももやしも、全部まとめて鍋に入れちゃおう!」
こうして、鍋の材料は揃った。団子から肉、香草、豆腐まで――まるで寄せ集めの宴。 「えっ、それ本当に鍋に入れるの!~」とツッコミが飛び交う中、鍋はぐつぐつと煮え始める。
鍋がぐつぐつと煮え始める頃、果林は酒瓶を片手に立ち上がった。 「やっぱり鍋には酒だよね。野菜も肉も、酒があれば全部美味しくなるんだ」
――しかし二杯、三杯と進むうちに、果林の様子が変わっていった。
「おいちい~……もっとのみたい~」 言葉が幼児のように丸くなり、頬がほんのり赤く染まる。
咲姫の隣に座り込むと、果林は突然抱きついた。 「咲姫ちゃん、かわいい~!ぎゅ~ってしたいの~!」 「ひゃっ!~ 果林さん!~ 鍋より熱いのです!」
紗綾の髪を見つけると、果林は指先でつまみながら笑った。 「さらさら~……なでなでしたい~」 紗綾は苦笑しつつ札帳に記す。 「酒は“笑いの火種”。これも記録に残すべきね」
そして果林の視線は鍋の中へ。 「豆腐ちゃん、ぷるぷる~やさしい~」 「ネギさん、すらっとしてかっこいい~」 「もやしちゃん、いっぱいでうれしい~!」
悠真が慌てて声を上げる。 「果林、鍋に落ちるぞ!」 女将は笑いながら出汁をかき混ぜる。 「まぁまぁ、笑いながら食べれば美味しいのよ」
果林は酒瓶を掲げて、ふらふらしながら叫んだ。 「笑いながら食べるから美味しいの~! 団子も肉も豆腐も、ぜんぶぜんぶおいちいの~!」
仲間たちは顔を見合わせ、そして大笑いした。 鍋の湯気と笑い声が混ざり合い、場はすっかり宴の空気に包まれていった。
鍋の中は、すでに混沌そのものだった。 団子がぷかぷか浮き、肉は底に沈み、香草が湯気に混ざって漂う。豆腐はぷるぷる揺れ、ネギはすらりと立ち、もやしは山のように広がっていた。
「えっ、それ本当に鍋に入れるの!~」 悠真が団子を見て叫ぶと、咲姫は胸を張る。 「団子も鍋の仲間なのです!」
果林は酒瓶を片手にふらふらと立ち上がり、鍋を指さした。 「ぜんぶぜんぶ、おいちいの~! 笑いながら食べるから美味しいの~!」
紗綾は札帳に筆を走らせながら微笑んだ。 「寄せ鍋は“寄せ集めの力”。混ざり合うほどに笑いが増す……これも記録に残すべきね」
女将は大鍋をかき混ぜながら頷いた。 「そうだよ。値段がどうとか関係ない。こうして笑いながら食べれば、どんな鍋も美味しいんだ」
団子が浮かぶ鍋を前に、みんなが箸を伸ばす。肉を頬張り、豆腐をすくい、もやしを山盛りにして、そして団子を恐る恐る口に運ぶ。 ――驚いたことに、意外と悪くない。
「……ほんとだ、美味しい」悠真が目を丸くする。 「でしょ~! 笑って食べれば美味しいの~!」果林が酒瓶を掲げて笑う。
笑い声と湯気が重なり、鍋はカオスのまま、しかし確かに美味しかった。
鍋の湯気が夜の札場に広がり、笑い声が絶えなかった。団子も肉も豆腐も、すべてが混ざり合って、カオスなのに不思議と美味しい。果林は酒瓶を抱えたまま、にこにこと頬を赤らめている。
紗綾は札帳を開き、静かに筆を走らせた。 「風の記録:日付・焦香月二十四日。香り・寄せ鍋と酒。問い・笑いながら食べるから美味しい。記録者・紗綾」
その言葉に、みんなが頷いた。値上がりも、旅の疲れも、今だけは忘れて。笑いながら食べるから美味しい――それが、この夜に刻まれた答えだった。
今回の閑話は、みんなで鍋を囲んで笑い合う場面でした。 団子も肉も豆腐も、鍋の中はカオス。でも、笑いながら食べれば美味しい。
果林が酒瓶を抱えて「おいちい~!」と叫ぶ声、咲姫の「団子なのです!」という元気、悠真の豪快なツッコミ、紗綾の札帳に残された記録。 そして、鍋の湯気に混ざるみんなの笑い声。
風が冷たい季節になってきました。インフルエンザや風邪などが猛威を振るっていますが、せめて皆様の心が温まるひと時になれば幸いです。
この階段は数字ではなく、縁の証。集まってくださった皆さんと、これからも笑いながら歩んでいければ幸いです。
――PV400の節目は、この笑い声で締めたいと思います。 読んでくださる皆さんも、どうぞ鍋の輪に混じって笑ってください。




