ep.2 札の町に、猫が祈る
はじめまして。 異世界転生ものを書いてみたくて、思い切って投稿してみました。 魔法が使えるようになる話ですが、いきなり強くなったりはしません。 ちょっとずつ、言葉を覚えて、魔法を学んでいく感じのゆるい成長物語です。 初心者ですが、楽しんでもらえたらうれしいです!
「札と茶屋と猫の祈り」
町の門をくぐった瞬間、風が変わった。 石畳の道に人々の声が重なって、屋台から漂う香ばしい匂いが鼻をくすぐる。 悠真はその流れに身を任せながら、どこか落ち着かない気持ちで歩いていた。
財布も、金も、何もない。 あるのは、魔法の素養だけ。 ……けれど、それが何に使えるのかも、まだわからない。
「……腹、減ったな」
ふと、背後から声が飛んできた。
「その顔、見たことないね。旅の人?」
振り返ると、濃紺の布を頭に巻いた女性が立っていた。 布は額から後ろへ丁寧に結ばれていて、端は肩にそっと垂れている。 市場の埃や日差しを避けるための実用的な装いだけど、どこか旅の風をまとったような佇まいだった。
腰には細身の小太刀。手には焼き魚の串。 年の頃は三十代半ばくらい。目元は鋭いけれど、口元には笑みが浮かんでいた。
「名前は?」
「ユウマです」
「ミナ。修徒士やってる。今日は依頼帰りでね、飯の買い出し中」
ちょうどその頃、屋台の奥から怒鳴り声が上がった。 少年が果物を手にしていて、店主に腕をつかまれている。 少年は必死に何かを訴えているけど、言葉が通じていないようだった。
悠真が一歩踏み出すより先に、ミナが動いた。
「ちょっと待った。そいつ、言葉が通じてないだけだよ」
ミナは少年に何かを問いかけて、ゆっくりと手を差し出した。 少年は戸惑いながらも果物を戻し、深く頭を下げる。
「まったく……最近は移民も増えてるからね。言葉が通じないってだけで、すぐ揉める」
ミナはため息をついて、悠真をちらりと見た。
「ユウマ、あんたも旅人でしょ? ちょっと寄ってくとこあるんだけど、ついてくる?」
「え?」
「ギルド――修徒士の札所だよ。登録しとけば、飯代くらいは稼げるかもね」
市場の奥にある建物は、石と木で組まれた二階建て。 入口には風に揺れる札が吊るされていて、寺のような静けさがあった。 屋根は少し反り返っていて、瓦の代わりに板が重ねられている。 建物の前には、猫の像がじっと座っていた。まるでこの場所を見守るように、風を受けながら佇んでいる。
中に入ると、受付の奥に依頼札場が広がっていた。 壁一面に札が並んでいて、触れると依頼内容が“感応”で伝わるらしい。 素養を持つ者だけが、札の“真意”を読み取れるんだとか。
ミナは受付で何かを報告してから、悠真に振り返った。
「登録は後でいい。まずは、こっち」
ギルドの裏手にある小道を抜けると、静かな茶屋が現れた。 木造の建物。障子越しに柔らかな光が差し込んでいて、焙じ茶の香ばしさが空気に溶けていた。 懐かしさを帯びた空気が、穏やかに満ちている。
「猫影茶屋。ギルドの喧騒が苦手な奴は、ここに来る」
茶屋の奥には、木の鳥居がひっそりと立っていた。 その先にある社では、白い装束の巫女が物音ひとつなく祈りを捧げている。
悠真はその声に、なぜか胸の奥に波紋のような揺らぎが広がった。 それは言葉ではなく、響きだった。
【素養《Oralis理解》が微かに反応しました】
最後まで読んでくださって、ありがとうございました! 悠真が町に入って、この世界の冒険者に出会いました。この世界のギルドはどんなところなんでしょうか。感想やアドバイスなど、いただけたらとても励みになります。 これからも、のんびり続けていきますので、よろしくお願いします!




