クリスマス特別閑話集『うさちぁんのクリスマス』
「かんぱーいっ!」
グラスがぶつかる音と、うさちぁんの笑い声が部屋に弾けた。 テーブルの上には、チキン、ポテト、ケーキ、そして…なぜか日本酒の一升瓶。 赤と金のリボンが天井から垂れ下がり、ツリーのてっぺんには、うさちぁんが「これが一番映える!」と選んだ、謎のぬいぐるみが鎮座している。
「いや~、やっぱクリスマスって言ったら、こうでしょ? ごちそうとお酒と、あと…」
あなたのグラスに酒を注ぎながら、うさちぁんはにやりと笑う。
「…あなたがいること、かな」
冗談めかした口調。でも、目だけは真っ直ぐだった。
宴は続く。 うさちぁんは、料理を取り分けたり、BGMの音量を調整したり、 誰よりも動き回って、誰よりも楽しそうに笑っていた。
「このポテト、揚げすぎたけど、カリカリで逆にうまいよ!食べて食べて!」
「ケーキはね、途中で飾りが崩れてさ~、でも味は保証する!たぶん!」
「え、もう酔ってる? うそ~、まだまだこれからでしょ~?」
そんなふうに、にぎやかで、ちょっとドジで、でもどこか目が離せない。
ふと、部屋の明かりが落ちた。 「サプラ~イズ!」という声とともに、ケーキに火が灯される。 うさちぁんが両手を広げて、あなたの前に立つ。
「メリークリスマス! …って、言いたかっただけ!」
その笑顔は、まるで子どものように無邪気で、 でもその奥に、少しだけ大人の寂しさが見えた気がした。
宴も終盤。 グラスの数は増え、うさちぁんの頬はすっかり赤くなっている。 ソファに座り込んで、あなたの隣にぽすんと寄りかかる。
「ねえ、今日さ…楽しかった?」
問いかけは、ふいに真面目だった。 あなたがうなずくと、彼女はほっとしたように笑う。
「よかった…。なんかさ、こういうの、ずっと続けばいいのにね」
その声は、少しだけ震えていた。 でもすぐに、うさちぁんは顔を上げて、いつもの調子に戻る。
「ま、来年もやればいいか! あなたが来てくれるなら、毎年でもやるし!」
そう言って、あなたのグラスに最後の一杯を注ぐ。 金のリボンが、彼女の髪にふわりと揺れた。
夜が更けていく。 窓の外には、静かに雪が降り始めていた。 うさちぁんは、あなたの肩にもたれたまま、すうすうと寝息を立てている。
その寝顔を見ながら、あなたはそっとグラスを置いた。 この夜が、終わらなければいいのに―― そんな願いが、胸の奥にふわりと灯った。




