ep.104 封じられた場所の入口なのです
小さな影の案内で、 咲姫たちは森のさらに奥へ進んでいった。
咲姫 「ひゃぁぁぁ……! どんどん暗くなるのです……!」
風音 「……“眠ってる風”が濃くなってる」
風花 「咲姫ちゃんの風も、ちょっと緊張してるねぇ」
果林 「団子の袋も重く感じるよ~」
咲姫 「団子で判断しないでほしいのですーー!!」
森の深層は、 まるで時間が止まったように静かだった。
紗綾 「……猫は“ここが境界”と言っています」
咲姫 「境界って…… また怖いのです……!」
オグマ 「気を抜くな。 この先は完全に未知の領域だ」
冒険者A 「了解!」
冒険者B 「後衛、魔法準備!」
小さな影は、 ふと立ち止まり、 大きな木の根元を指さした。
影 「……ぴ……!」
咲姫 「ひゃっ……!? こ、ここなのです……?」
風音 「……うん。 “封じられた風”が、この奥にいる」
咲姫 「奥って…… 木の根元なのです……?」
風花 「この木……ただの木じゃないよ。 “風の祠”の古い型だねぇ」
咲姫 「ひゃぁぁぁ……! また祠なのですーー!!」
紗綾 「……猫は“古代の祠”と言っています」
オグマ 「古代……? 記録にもほとんど残っていないはずだが……」
咲姫は木の根元に近づき、 そっと手を触れた。
……ふわっ。
咲姫 「ひゃっ……!? な、なんか……風さんが…… 震えてるのです……!」
風音 「……“封じられた風”が反応してる。 咲姫の風を感じてる」
咲姫 「感じなくていいのですーー!! 私、ただの咲姫なのですーー!!」
果林 「でも咲姫、風に好かれてるよ~」
咲姫 「好かれなくていいのですーー!!」
小さな影は、 咲姫の足元に寄り添い、 木の根元をそっと叩いた。
影 「……ぴ……ぴ……」
咲姫 「ひゃっ……!? な、何を言ってるのです……!」
風音 「……“開けて”って言ってる」
咲姫 「開けるって…… どうやってなのですーー!!?」
風花 「咲姫ちゃんの風なら、 “鍵”になるよ」
咲姫 「また鍵なのですーー!!」
オグマ 「咲姫。 お前の風で触れてみろ。 祠が反応するはずだ」
咲姫 「うぅ…… 怖いのです…… でも……がんばるのです……!」
咲姫が両手を木の根元に当てると――
……ふわぁぁぁ……
木の根元から、 淡い光がゆっくりと広がった。
咲姫 「ひゃっ……!? ひ、光ってるのですーー!!」
風音 「……咲姫。 “封じられた風”が目を覚ます」
咲姫 「目を覚まさなくていいのですーー!!」
光はさらに強まり、 木の根元に“風の紋様”が浮かび上がった。
紗綾 「……猫は“封印が解ける”と言っています」
咲姫 「解けなくていいのですーー!!」
小さな影は、 その光の前に立ち、 まるで祈るように目を閉じた。
影 「……ぴ……」
咲姫 「ひゃっ……!? こ、この子…… まさか…… 封じられた風と……関係あるのです……?」
風音 「……うん。 この子は“封じられた風の欠片”」
咲姫 「欠片なのですーー!? そんな大事な子だったのですーー!!?」
光がさらに強まり、 森の奥から――
……ふわり……
“古くて深い風”が吹いた。
まるで―― 長い眠りから目覚めたように。




