ep.103 森の深層、導かれるのです
小さな影は、 とことこと森の奥へ歩いていく。
咲姫 「ひゃぁぁぁ……! ま、待ってほしいのですーー!! そんなに早く歩かないでほしいのですーー!!」
影 「……ぴ?」
風音 「……咲姫の風に合わせてくれてる。 優しい子」
咲姫 「優しいのは嬉しいのです…… でも怖いのですーー!!」
果林 「団子あげたら仲良くなれるよ~」
咲姫 「団子はあげないのですーー!!」
森の深層へ進むほど、 空気はさらに冷たく、 風はさらに静かになっていく。
紗綾 「……猫は“ここから先は別の領域”と言っています」
咲姫 「べ、別の領域って…… 怖いのです……!」
オグマ 「気を抜くな。 この辺りは記録にもほとんど残っていない。 未知の領域だ」
冒険者A 「了解!」
冒険者B 「後衛、警戒を強めろ!」
小さな影は、 ふと立ち止まり、 咲姫のほうを振り返った。
影 「……ぴ……」
咲姫 「ひゃっ……!? な、なんか言ってるのです……!」
風音 「……“ついてきて”って言ってる」
咲姫 「ついてきてって…… もうついてきてるのですーー!!」
影は、 咲姫の足元にふわっと寄り添った。
風花 「咲姫ちゃん、この子…… 咲姫ちゃんの風に懐いてるよ」
咲姫 「懐かれても困るのですーー!! 私、風使いなのですーー!! 動物じゃないのですーー!!」
果林 「でもかわいいよ~。 団子あげたらもっと懐くよ~」
咲姫 「団子はあげないのですーー!!」
そのとき―― 森の奥から、 ふわりと“古い風”が吹いた。
咲姫 「ひゃっ……!? な、なんか来たのです……!」
風音 「……咲姫。 “封じられた風”が近い」
咲姫 「近いのです……?」
風音 「……うん。 でも…… “怒ってない”」
咲姫 「怒ってないのです……?」
風花 「むしろ…… “助けを求めてる”感じがするねぇ」
紗綾 「……猫は“悲しい風”と言っています」
咲姫 「悲しい……?」
小さな影は、 咲姫の足元にぴたりと寄り添い、 森の奥を指さすように前足を伸ばした。
影 「……ぴ……!」
咲姫 「ひゃっ……!? あっちに行けって言ってるのです……?」
風音 「……うん。 “封じられた風”の場所を示してる」
オグマ 「よし。 この子の案内に従う。 咲姫、先頭を頼む」
咲姫 「ひゃぁぁぁ……! ま、また私なのですーー!! でも……がんばるのです……!」
咲姫が一歩踏み出すと、 森の奥から“眠っていた風”が ふわりと揺れた。
まるで―― 咲姫を待っていたかのように。




