ep.102 森の奥、眠りの風なのです
森の中へ足を踏み入れると、 空気がひんやりと変わった。
咲姫 「ひゃっ……! なんか……冷たいのです……!」
風音 「……“眠ってる風”が強くなってる」
風花 「咲姫ちゃんの風も、ちょっと緊張してるねぇ」
果林 「団子の袋も冷たくなってるよ~」
咲姫 「団子で判断しないでほしいのですーー!!」
森の奥へ進むほど、 風は静かになり、 鳥の声すら聞こえなくなった。
紗綾 「……猫は“森が息を止めている”と言っています」
咲姫 「息を止めてるって…… 森さん、怖いのです……!」
オグマ 「気を抜くな。 昨日のマウラーの件もある。 何が出てもおかしくない」
冒険者A 「了解!」
冒険者B 「後衛、警戒を強めろ!」
咲姫は胸の奥に手を当て、 そっと目を閉じた。
……ふわっ。
咲姫 「……“眠ってる風”が…… 近くなってるのです…… でも……なんか…… “泣いてる”のです……」
風音 「……泣いてる風」
風花 「精霊さんの風とも違うねぇ。 もっと深い……もっと古い……」
咲姫 「うぅ…… 古いのは怖いのです……!」
そのとき――
ぱきっ。
小枝が折れる音がした。
咲姫 「ひゃっ……!? な、何なのです……!」
冒険者A 「前方、動きあり!」
冒険者B 「構えろ!!」
オグマ 「落ち着け。 敵かどうか、まだわからん」
風音は風の流れを読み取り、 静かに言った。
風音 「……違う。 “敵の風”じゃない」
咲姫 「敵じゃないのです……?」
風音 「……“迷ってる風”」
咲姫 「迷ってる……?」
草むらが揺れ、 小さな影がひょこっと顔を出した。
咲姫 「ひゃぁぁぁ……! ま、またモンスターなのです……!?」
影 「……ぴ……?」
果林 「あっ、ちっちゃい子だよ~!」
風花 「ほんとだ。 森の子ども……かな?」
紗綾 「……猫は“迷子”と言っています」
咲姫 「迷子なのです……?」
小さな影は、 咲姫の風にふわっと引き寄せられるように近づいた。
影 「……ぴぃ……」
咲姫 「ひゃっ……! な、なんか寄ってきたのです……!」
風音 「……咲姫の風に反応してる。 “助けて”って言ってる」
咲姫 「助けてって…… 私、そんなに頼られても困るのですーー!!」
オグマ 「咲姫。 その子は“鍵”かもしれん」
咲姫 「また鍵なのですーー!!?」
風花 「でもねぇ、咲姫ちゃん。 この子の風…… “眠ってる風”と同じ匂いがするよ」
咲姫 「ひゃっ……!? じゃあ……この子…… “封じられた風”と関係あるのです……?」
影 「……ぴ……」
咲姫 「ひゃぁぁぁ……! しゃべったのですーー!!」
風音 「……咲姫。 この子、案内してくれるって言ってる」
咲姫 「案内って…… どこに行くのですーー!!?」
影はくるっと振り返り、 森の奥へと歩き出した。
まるで―― “封じられた風”の眠る場所へ 導くかのように。




