ep.101 森の入口、ざわつくのです
森の入口に立つと、 昨日とは違う“静けさ”が広がっていた。
咲姫 「ひゃっ……! なんか……森が静かすぎるのです……!」
風音 「……うん。 “風が眠ってる”」
果林 「団子の袋も動かないよ~。 これはほんとに静か~」
咲姫 「団子で判断しないでほしいのですーー!!」
風花 「でもねぇ、咲姫ちゃん。 この静けさ……ただの静けさじゃないよ。 “何かを待ってる”感じがするねぇ」
紗綾 「……猫は“森が息を潜めている”と言っています」
咲姫 「息を潜めてるって…… 森さん、怖いのです……!」
オグマは森の奥をじっと見つめた。
オグマ 「昨日のマウラーの件もある。 森の奥で何かが起きているのは確実だ。 咲姫、風は何か言っているか?」
咲姫 「ひゃっ……! ま、また私なのです……!」
咲姫は胸の奥に手を当て、 そっと目を閉じた。
……ふわっ。
咲姫 「……森の奥から…… “眠ってる風”が呼んでるのです…… でも……昨日の精霊さんじゃないのです…… もっと……深くて…… もっと……古い…… “底の風”なのです……」
風音 「……底の風」
風花 「精霊さんよりも古い風……? そんなの、聞いたことないねぇ」
紗綾 「……猫は“封じられた風”と言っています」
咲姫 「封じられたって…… また封印なのですーー!!?」
果林 「咲姫、封印にモテモテだね~」
咲姫 「モテなくていいのですーー!!」
オグマ 「“封じられた風”…… 過去の記録にもほとんどない言葉だな」
冒険者A 「そんな存在が本当に……?」
冒険者B 「でも、咲姫ちゃんの風が言うなら……」
咲姫 「うぅ…… 私の風、そんなに信用されても困るのです……!」
風音 「……咲姫の風は嘘つかない。 “感じたもの”をそのまま伝えるだけ」
咲姫 「感じたくないのですーー!!」
そのとき―― 森の奥から、 ひゅう……と細い風が吹いた。
咲姫 「ひゃっ……!? な、なんか来たのです……!」
風音 「……咲姫、今の風は?」
咲姫 「えっと…… “こっちへ来て”って…… 言ってるのです……!」
オグマ 「案内の風か。 なら、進むしかないな」
風花 「咲姫ちゃん、先頭お願いねぇ」
咲姫 「ひゃぁぁぁ……! ま、また私なのですーー!! でも……がんばるのです……!」
咲姫が一歩踏み出すと、 森の奥から“眠っていた風”が ふわりと目を覚ましたように揺れた。
まるで―― 咲姫を待っていたかのように。




