ep.98 英雄扱いは困るのです
マウラー撃退から少し時間が経ち、 北門周辺の片付けが進む中――
オグマ 「よし、ひとまずギルドへ戻るぞ。 負傷者の確認と報告が先だ」
咲姫 「は、はいなのです……!」
風音 「……咲姫、風がまだ温かい。 “よくやった”って言ってる」
咲姫 「うぅ……照れるのです……!」
果林 「団子も“よくやった”って言ってるよ~」
咲姫 「団子はしゃべらないのですーー!!」
ギルドへ戻ると、 すでに町の人たちが集まっていた。
町の人A 「あっ、咲姫ちゃんだ!」
町の人B 「風で避難を助けてくれたんだって?」
町の人C 「ありがとう! あの風がなかったら、うちは逃げ遅れてたよ!」
咲姫 「ひゃっ……!? あ、あの……そんな…… 私、ただ風さんにお願いしただけなのです……!」
風花 「ふふ。 咲姫ちゃん、人気者だねぇ」
紗綾 「……猫も“英雄扱い”と言っています」
咲姫 「英雄じゃないのですーー!! ただの咲姫なのですーー!!」
冒険者A 「いや、咲姫ちゃんは英雄だよ。 あの風の壁、すごかった」
冒険者B 「俺たち前衛、あれで助かったんだ。 本当にありがとう」
咲姫 「ひゃぁぁぁ……! 褒められると…… 胸がむずむずするのです……!」
オグマは腕を組んだまま、 少しだけ表情をゆるめた。
オグマ 「咲姫。 英雄扱いが嫌なら、 “仲間として誇れ”」
咲姫 「仲間……?」
オグマ 「お前は今日、 “仲間を守る風”だった。 それで十分だ」
咲姫 「……うぅ…… オグマさん…… そんなこと言われたら…… 泣いちゃうのです……!」
風音 「……咲姫、風がまた喜んでる」
風花 「ほんとに、いい風になったねぇ」
果林 「団子も泣いてるよ~」
咲姫 「団子は泣かないのですーー!!」
ギルドの中に、 優しい風がふわっと流れた。
それはまるで―― 咲姫の中に宿った“古い風”が、 そっと背中を押しているようだった。




