ep.94 本格襲撃なのです
北門の前に立つと、 森の奥から“黒い影”がうねるように迫ってきていた。
咲姫 「ひゃぁぁぁ……! な、なんかいっぱい来てるのです……!」
風音 「……風が叫んでる。 “危険、危険、急げ”って」
果林 「団子の袋も震えてるよ~。 これはほんとにヤバいよ~」
咲姫 「団子で判断しないでほしいのですーー!!」
冒険者A 「前衛、構えろ! 後衛は魔法準備!」
冒険者B 「避難民、あと三十人! 時間が足りません!」
オグマ 「咲姫、風を強めろ! 避難を最優先だ!」
咲姫 「は、はいなのです……!」
咲姫は胸の奥に手を当て、 深く息を吸い込んだ。
咲姫 「……風さん…… みんなを……守ってほしいのです……!」
ふわっ。
さっきよりも強い風が、 咲姫の足元から広がった。
風音 「……きた。 “守りの風”」
風花 「咲姫ちゃんの風、過去よりも強いよ。 精霊さんの風が混ざってるねぇ」
紗綾 「……猫は“優しいけど強い風”と言っています」
果林 「わぁ~、避難の列が早くなってるよ~!」
民間人 「風が……背中を押してくれる……!」
民間人 「この道、安心して歩ける……!」
咲姫 「ほ、本当に……! みんな動いてるのです……!」
オグマ 「よし、そのまま続けろ!」
そのとき―― 森の奥から、 ひときわ大きな影が姿を現した。
咲姫 「ひゃっ……!? な、なんか大きいのがいるのです……!」
風音 「……“群れの主”」
冒険者A 「で、でかい……! あれは……フォレスト・マウラー級だぞ!」
冒険者B 「前衛だけじゃ止められません! どうしますか、オグマさん!」
オグマ 「全員、構えろ! 咲姫、風を乱すな!」
咲姫 「乱さないのですーー!!」
フォレスト・マウラー(巨大影) 「グォォォォォ……!」
地面が揺れ、 木々がなぎ倒される。
咲姫 「ひぃぃぃ……! こ、怖いのです……!」
風音 「……咲姫、落ち着いて。 “風は味方”」
咲姫 「味方って言われても怖いのですーー!!」
風花 「でもねぇ、咲姫ちゃん。 その風、みんなを守ってるよ」
果林 「ほら~、避難があと少しで終わるよ~!」
咲姫 「ほ、本当なのです……?」
オグマ 「咲姫、あと少しだ。 お前の風が、町を守っている」
咲姫 「うぅ……! が、がんばるのです……!」
咲姫の風がさらに強まり、 避難民の列が一気に動き始めた。
冒険者A 「避難完了まであと十人!」
冒険者B 「マウラーが突っ込んでくるぞ!!」
オグマ 「前衛、盾を構えろ! 後衛、魔法準備!」
咲姫 「ひゃぁぁぁ……! でも……みんなを守るのです……!」
風が、 咲姫の背中をそっと押した。




