ep.88 封じられた場所で会うのです
光の扉をくぐると、 そこは森の中とは思えないほど静かで、 空気がふわっと柔らかかった。
咲姫 「ここ……森の中じゃないみたいなのです……」
風音 「……“風が閉じた場所”。 外とは違う空気が流れてる」
果林 「団子の匂いもしないよ~。 ここ、すごく静か~」
紗綾 「……猫は“誰かいる”と言っています」
リオは前へ進み、 薄い光の中をじっと見つめた。
リオ 「……あれは……!」
光の奥に、 ひとりの青年が座り込んでいた。
青年 「……ん……?」
咲姫 「ひゃっ……! 人なのです……!」
風花 「大丈夫だよ。 気を失ってただけみたいだねぇ」
青年はゆっくりと顔を上げ、 リオを見て目を丸くした。
青年 「……リオ……? なんで……ここに……」
リオ 「探しに来たに決まってるだろ……! 無事でよかった……!」
青年 「……ごめん…… 森の声が聞こえて…… 気づいたらここに……」
咲姫 「森の声って……精霊さんなのです?」
風の精霊 「……そう…… わたしが……よんだ…… でも……力が弱くて…… ここで……とまってしまった……」
青年 「声は聞こえたんだけど…… 途中で風が消えて…… 動けなくなって……」
風音 「……“風が閉じた場所”だから。 普通の人は、風がないと動けない」
咲姫 「じゃあ……私たちが来なかったら……?」
風花 「ずっとここで寝てたかもねぇ。 でも、もう大丈夫だよ」
果林 「咲姫の風が開けたからね~」
咲姫 「また私なのですーー!!」
青年は咲姫を見て、 少しだけ笑った。
青年 「君が……風を開けてくれたのか……? ありがとう……助かったよ……」
咲姫 「ひゃっ……! あ、あの……どういたしましてなのです……!」
紗綾 「……猫は“帰ろう”と言っています」
オグマ 「そうだな。 ここは長居する場所ではない」
風の精霊 「……あなたたち……ありがとう…… 森の風……また……ながれる……」
風の子 「……かえる…… みんなで……かえる……」
咲姫 「帰るのです……!」
光の扉が、 まるで待っていたかのようにふわりと揺れた。




