ep.86 精霊に風を分けるのです
風の精霊は、 まるで長い眠りから覚めたばかりのように、 ゆっくりと咲姫へ手を伸ばした。
風の精霊 「……あなたの風……すこし…… わたしに……かして……」
咲姫 「うぅ……また私なのです…… でも……困ってるなら……少しだけなのです……!」
咲姫がそっと精霊の手に触れた瞬間、 胸の奥がふわっと温かくなった。
風音 「……咲姫の風が流れてる。 精霊の力が戻っていく」
風花 「咲姫ちゃんの風、ほんとに優しいねぇ。 精霊さん、嬉しそうだよ」
果林 「光が強くなってるよ~。 咲姫の風、おいしいんだね~」
咲姫 「おいしいって言わないでほしいのですーー!!」
風の精霊 「……あたたかい…… やさしい風…… ありがとう……」
精霊の身体を包む光が、 ふわりと広がり、森の奥へ流れていく。
紗綾 「……猫は“封じられた風が動き出した”と言っています」
オグマ 「封じられた……? 何かが開くのか」
風音 「……うん。 精霊の力が戻れば、 森の奥の“封じられた場所”が開く」
咲姫 「封じられたって……何なのです……?」
風の精霊 「……あなたたちの仲間…… その場所へ……いった…… わたしの声に……みちびかれて……」
リオ 「仲間が……そこに……?」
風の精霊 「……でも…… その場所は……“風が閉じた場所”…… わたしの力がなければ……開かない……」
咲姫 「じゃあ……精霊さんを助けたから……開くのです?」
風の精霊 「……うん…… あなたの風が……鍵……」
咲姫 「また鍵なのですーー!!」
果林 「咲姫、鍵っ子だね~」
咲姫 「鍵っ子って言わないでほしいのですーー!!」
風の子 「……ひらく…… もうすぐ……ひらく……」
森の奥から、 今まで感じたことのない“風の気配”が流れてきた。
風音 「……来る。 封じられた場所が……開く」
咲姫 「ひゃっ……なんか胸がぽかぽかするのです……!」
風の精霊 「……ありがとう…… あなたの風で……道がひらける……」
光が森の奥へ吸い込まれるように流れ、 静かだった空気が、ゆっくりと動き始めた。




