ep.85 古い風の精霊、なのです
森の奥へ進むと、 空気がふっと揺れた。
風の子 「……きた…… あのひと……ここ……」
咲姫 「ひゃっ……胸がまたぽかぽかするのです……!」
風音 「……咲姫の風が反応してる。 “古い風”が近い」
果林 「古い風って~? おじいちゃん風~?」
咲姫 「おじいちゃんって言わないでほしいのですーー!!」
紗綾 「……猫は“とても古くて優しい風”と言っています」
オグマ 「敵意はなさそうだが、警戒はしておけ」
そのとき―― 森の奥の木々が、音もなく揺れた。
ふわり、と。 風が吹いていないのに、葉だけがそっと震える。
??? 「…………ようやく……きてくれた……」
咲姫 「ひゃっ……! 声なのです……!」
風花 「優しい声だねぇ。 森の奥でずっと眠ってたみたい」
淡い光が集まり、 ゆっくりと“人の形”をつくっていく。
光の姿は、影よりもしっかりしていて、 風の子よりも落ち着いていて、 どこか懐かしい気配をまとっていた。
風の精霊 「……わたしは……この森の“古い風”…… 長く……眠っていた……」
咲姫 「古い風って……精霊さんなのです……?」
風の精霊 「……そう…… あなたの風……やさしい…… だから……呼んだ……」
咲姫 「呼ばれても困るのですーー!!」
果林 「咲姫、またモテてるよ~」
咲姫 「モテなくていいのですーー!!」
風音 「……この精霊、森の“守り手”。 祠の影よりも古い存在」
風花 「森が弱ってたから、眠りから覚めたんだねぇ」
リオ 「じゃあ……仲間を呼んだのは……?」
風の精霊 「……あなたの仲間…… “風を感じる心”を持っていた…… だから……わたしの声が届いた……」
咲姫 「仲間さん、精霊さんに呼ばれたのです……?」
風の精霊 「……そう…… でも……途中で……風が途切れた…… “助け”が必要……」
咲姫 「助けって……誰を助けるのです……?」
風の精霊は、 咲姫の胸のあたりをそっと見つめた。
風の精霊 「……あなたの風…… “鍵”になる……」
咲姫 「また鍵なのですーー!!」
風音 「……咲姫の風が、精霊の力を目覚めさせる」
風花 「咲姫ちゃん、森に好かれすぎだよ~」
咲姫 「好かれても困るのですーー!!」
風の精霊 「……どうか…… わたしに……すこし……風を……」
咲姫 「また私なのですーー!!」
それでも、 胸の奥の“ふわっ”とした温かさは、 精霊の方へと優しく流れていた。




