ep.80 北の森、風が止まるのです
北の森の奥へ進むと、 さっきまで流れていた風が、急にぴたりと止まった。
咲姫 「えっ……風が止まったのです……?」
風音 「……ここ。 “誰かが風を止めた場所”」
咲姫 「止めるって何なのですーー!!」
果林 「団子の袋の音だけ響くよ~……こわ~い……」
紗綾 「……猫も耳を立てています。 “何かいる”と言っています」
風花 「空気が重いねぇ。 でも、祠のときみたいな怖さじゃないよ」
リオは周囲を見渡しながら、 少しだけ眉をひそめた。
リオ 「仲間の風がここで途切れてる…… でも、気配は消えてない。 “誰かに会った”風だ」
咲姫 「会ったって……誰に会ったのです?」
風音 「……風じゃない“何か”。 でも、敵意はなかった」
咲姫 「敵意がないなら……大丈夫なのです?」
風音 「……うん。 ただ、“風を止める力”を持ってる」
咲姫 「そんな力、あるのです……?」
風花 「風を止めるって、 “風と仲良しじゃないとできない”んだよ」
咲姫 「仲良しって何なのですーー!!」
果林 「咲姫も風と仲良しだよ~。 影さんにもモテモテだったし~」
咲姫 「モテても困るのですーー!!」
オグマ 「静かにしろ。 この先に何かいる」
森の奥から、 ひんやりとした“風のない空気”が流れてきた。
咲姫 「ひゃっ……なんか冷たいのです……」
風音 「……違う。 これは“風が引いてる”空気」
咲姫 「引くって何なのです……?」
風音 「……“誰かを待ってる”風」
咲姫 「待ってるって……誰をなのです……?」
風音 「……咲姫」
咲姫 「私なのですーー!!?」
果林 「咲姫、またモテてるよ~」
咲姫 「モテなくていいのですーー!!」
紗綾 「……猫は“行け”と言っています」
風花 「大丈夫だよ。 この風、優しいよ」
オグマ 「進むぞ。 風が咲姫を呼んでいる」
咲姫 「呼ばれても困るのですーー!!」
それでも、 咲姫は胸の奥が“ふわっ”と温かくなる方向へ、 一歩踏み出した。




