ep.79 北の森へ向かうのです
北の森へ向かう道は、昨日よりもずっと静かだった。 風が落ち着いていて、森全体が深呼吸しているようだった。
咲姫 「なんか……昨日より歩きやすいのです」
風音 「……祠の風が戻ったから。 森の“ざわつき”が消えた」
果林 「団子の袋の音も響かないよ~」
咲姫 「それは果林さんが食べてるからなのです……!」
紗綾 「……猫は“北の風が薄い”と言っています」
リオ 「薄い……? それって、仲間が通った風……?」
風音 「……うん。 “急いで通った風”は、薄くて軽い。 誰かが走り抜けた風」
咲姫 「走り抜けたって……逃げてたのです?」
風音 「……逃げてた風。 でも、怖がってはいなかった」
咲姫 「怖がってないのです……?」
風花 「たぶん、“急いで誰かに会いに行った”風だよ。 そんな感じがするねぇ」
果林 「じゃあ、仲間さんは無事なんだね~」
リオ 「……そうだといい。 あいつは無茶するから……」
オグマ 「足跡は見えないが、風が道を示している。 このまま北へ進むぞ」
咲姫 「風が道を示すって……どうやってわかるのです?」
風音 「……咲姫も感じてるはず。 胸の奥が“ふわっ”とする方向」
咲姫 「ふわっ……? あっ……なんか、こっちが気になるのです……」
風音 「……それ。 咲姫の風が“道を読んでる”」
咲姫 「読んでるって言われても困るのですーー!!」
果林 「咲姫、風にモテモテだよ~」
咲姫 「モテても困るのですーー!!」
紗綾 「……猫は“この先に何かある”と言っています」
風花 「風も猫も同じこと言ってるなら、間違いないねぇ」
オグマ 「気をつけろ。 風が薄いということは、何かが“風を奪った”可能性もある」
咲姫 「奪ったって何なのですーー!!」
風音 「……大丈夫。 咲姫の風があれば、道は開く」
咲姫 「また私なのですーー!!」
北の森の奥へ進むと、 確かに“誰かが急いで通った風”が、薄く残っていた。
リオ 「……この風、間違いない。 仲間の気配だ」
咲姫 「じゃあ……もうすぐ会えるのです?」
風音 「……うん。 でも、この先で“風が途切れてる”」
咲姫 「途切れてるって何なのです……?」
風音 「……誰かが“風を止めた”」
咲姫 「止めたって何なのですーー!!」
森の奥から、 ひんやりとした風がひとすじ流れてきた。




