ep.76 町に帰るのです
祠を出ると、森の風はすっかり優しくなっていた。 冷たかった空気も、今はどこか柔らかい。
咲姫 「なんか……森がほっとしてるみたいなのです」
風音 「……祠の風が戻ったから。森も安心してる」
果林 「帰ったら団子食べよ~。いっぱい食べよ~」
咲姫 「果林さんはいつも団子なのです……!」
風花 「でも、団子の匂いで影さん来るかもねぇ」
咲姫 「来られても困るのです……!」
紗綾 「……猫は“また来る”と言っています」
オグマ 「町まで気を抜くなよ。森が落ち着いたとはいえ、道は長い」
リオは森の出口を見つめながら、 少しだけ表情を緩めた。
リオ 「……ありがとう。 祠の風が戻れば、仲間の足跡も追いやすくなる」
咲姫 「仲間さん……まだ見つかってないのです?」
リオ 「うん。でも、森の風が乱れていたせいで、 気配が全部消えていたんだ。 これで、少しは手がかりが戻るはず」
風音 「……森の奥に“薄い風”が残ってた。 誰かが通った風」
咲姫 「誰かって……リオさんの仲間さんなのです?」
風音 「……たぶん。 “急いでた風”だった」
リオ 「急いで……? じゃあ、生きてる可能性が高い……!」
果林 「よかったね~リオくん!」
紗綾 「……猫も“生きている”と言っています」
風花 「風は嘘つかないからねぇ。 きっと、また会えるよ」
咲姫 「じゃあ……私たち、少しは役に立てたのです?」
風音 「……うん。 咲姫の風がなかったら、祠は目覚めなかった」
咲姫 「うぅ……褒められても困るのです……!」
森を抜けると、町の屋根が見えてきた。 優しい風が背中を押す。
風音 「……“また来る”って風が言ってる」
咲姫 「影さんなのです!? 風で言われてもわからないのですーー!!」
果林 「でも、また会えたらいいね~」
風花 「きっと会えるよ。風はつながってるからねぇ」
オグマ 「さあ、町に戻るぞ。 今日のところは、よくやった」
咲姫 「は、はいなのです!」
優しい風が、咲姫たちの帰り道を照らすように吹いた。




