ep.75 影、風に還るのです
影が光に包まれていくと、 祠の中の空気がふわっと温かくなった。 まるで長い眠りから目覚めたように、風が静かに流れ始める。
咲姫 「影さん……いなくなっちゃうのです……?」
風音 「……いなくなるんじゃない。 “風に戻る”だけ」
果林 「影さん、風の子だったんだもんね~」
紗綾 「……猫も“また会える”と言っています」
風花 「風になったら、どこにでも行けるからねぇ。 咲姫ちゃんのところにも、また来るよ」
咲姫 「また来るのです……? 本当に……?」
影 ふよ……(最後に咲姫の手に触れるように揺れる)
咲姫 「ひゃっ……! あったかいのです……」
光がふっと広がり、 影は静かに祠の風へと溶けていった。
風音 「……祠の風、完全に整った」
オグマ 「これで森の異変も収まるだろう」
果林 「影さん、元気でね~。団子の匂い、また嗅ぎに来てね~」
咲姫 「団子の匂いで来られても困るのです……!」
風花 「さあ、帰ろうか。 風が“帰っていいよ”って言ってるよ」
紗綾 「……猫も帰り道を覚えているようです」
祠を出ると、森の風はすっかり優しくなっていた。 冷たかった空気も、今はどこか柔らかい。
咲姫 「なんか……森が笑ってるみたいなのです」
風音 「……祠の風が戻ったから。 森も安心してる」
果林 「帰ったら団子食べよ~。いっぱい食べよ~」
咲姫 「果林さんはいつも団子なのです……!」
オグマ 「町まで気を抜くなよ」
風花 「でも、風は味方だよ。 影さんも、きっと一緒に帰ってる」
咲姫 「えっ……影さん、ついてきてるのです……?」
風音 「……うん。 “ありがとう”って風が言ってる」
咲姫 「風でありがとうって言われてもわからないのですーー!!」
みんなの笑い声が森に響き、 優しい風がそっと背中を押した。




