ep.74 祠の最深部、影の願いなのです
祠の奥へ進むと、空気がさらに澄んでいった。 風が戻ったはずなのに、ここだけは静かで、まるで時間が止まっているようだった。
咲姫 「ここ……なんか、空気が違うのです……」
果林 「団子の匂いもしないよ~。しんと静か~」
紗綾 「……猫が“ここが最後だ”と言っています」
風花 「祠の心臓みたいな場所だねぇ。 風が生まれる前の空気が残ってるよ」
風音 「……ここが最深部。 影の“願い”がある場所」
咲姫 「願いって何なのです……? 影さん、何をしたかったのです……?」
影 ふよっ(奥の石碑を指すように揺れる)
オグマ 「石碑か。何か刻まれているな」
石碑には古い文字が刻まれていた。 風の流れを描いたような線が、ぐるぐると渦を巻いている。
紗綾 「……これは“風をつなぐ儀式”の図でしょうか」
風音 「……うん。 祠の風が弱ったとき、 “風の欠片”がここに戻るように描かれてる」
咲姫 「風の欠片……影さんのことなのです?」
影 ふよふよ(肯定するように揺れる)
果林 「影さん、自分で戻れなかったんだね~」
風花 「だから咲姫ちゃんの風を借りて、ここまで来たんだよ」
咲姫 「借りられてたのです!? 私の風……!」
風音 「……咲姫の風は“鍵”。 影が戻るための最後の風」
咲姫 「また鍵なのですーー!! 私、鍵ばっかりなのですーー!!」
影は咲姫の前に来て、 そっと咲姫の手に触れるように揺れた。
咲姫 「ひゃっ……! な、なんか優しいのです……」
風花 「影さん、お願いしてるんだよ。 “最後の風をちょうだい”って」
果林 「咲姫、がんばれ~。団子あげるから~」
咲姫 「団子は後なのですーー!!」
風音 「……咲姫が石碑に触れれば、 影は“本来の風”に戻れる」
咲姫 「戻るって何なのですーー!!」
オグマ 「やってみろ。影が望んでいる」
影 ふよふよ(期待している)
咲姫 「うぅ……わかったのです……!」
咲姫が石碑にそっと手を置くと、 胸の奥がまたふわっと温かくなった。
石碑 かすかに光る。
影 ふよっ(嬉しそうに揺れる)
風音 「……これで影は“風に戻る”。 祠の風が完全に整う」
咲姫 「整うって何なのですーー!!」
石碑の光がふわっと広がり、 影の体がゆっくりと淡い光に包まれていった。
影 ふよ……(お礼を言うように揺れる)
咲姫 「えっ……影さん……?」
影は光に溶けるように、 静かに祠の風へと戻っていった。




