ep.72 祠の奥、風の源なのです
祠の奥へ進むと、空気がさらに静かになった。 風が止まっているのに、どこかで「風の気配」だけが漂っている。
咲姫 「なんか……しんと静かすぎるのです……」
果林 「団子の袋の音がめっちゃ響くよ~……」
紗綾 「……猫も耳を立てています。何か感じているようです」
風花 「ここ、風が眠ってるみたいだねぇ」
風音 「……この奥に“風の源”がある。 祠の中心の、もっと奥」
咲姫 「源って何なのです……? 風の生まれる場所なのです?」
風音 「……うん。風の“始まり”」
咲姫 「始まりって何なのですーー!」
影 ふよっ(奥の小部屋を指すように揺れる)
オグマ 「影が案内している。行くぞ」
小部屋に入ると、中央に丸い石が置かれていた。 石はひんやりしているのに、どこか温かい気配を持っている。
咲姫 「これ……ただの石なのです?」
風音 「……風の源。 でも、今は“風が抜けてる”。 だから祠の風が弱かった」
果林 「じゃあ、影さんはここに風を戻したかったんだね~」
影 ふよふよ(肯定するように揺れる)
紗綾 「……影は祠の“風の欠片”だったのですね」
風花 「だから咲姫ちゃんの風を借りて、ここまで来たんだねぇ」
咲姫 「借りられてたのです!? 私の風……!」
風音 「……咲姫の風は“鍵”。 源に触れれば、風が戻る」
咲姫 「また私なのですーー!!」
影は咲姫の前に来て、 そっと咲姫の手に触れるように揺れた。
咲姫 「ひゃっ……! な、なんか優しいのです……」
風花 「影さん、お願いしてるんだよ。 “風を返して”って」
果林 「咲姫、がんばれ~。団子あげるから~」
咲姫 「団子で応援されても困るのですーー!」
オグマ 「やってみろ。危険はない」
咲姫 「うぅ……わかったのです……!」
咲姫が石にそっと手を置くと、 胸の奥がまたふわっと温かくなった。
石 かすかに光る。
影 ふよっ(嬉しそうに揺れる)
風音 「……咲姫の風が源に流れた。 これで“風が戻る”」
咲姫 「戻るって何なのですーー!!」
小部屋に、柔らかい風がふわっと広がった。 影の体が少しだけ明るくなったように見えた。
風花 「影さん……元気になってるねぇ」
紗綾 「……猫も“よかった”と言っています」
果林 「影さん、ぽかぽかだよ~」
影 ふよふよ(お礼を言うように揺れる)
咲姫 「えっ……影さん、ありがとうって言ってるのです……?」
風音 「……うん。“ありがとう”の風」
咲姫 「風でありがとうって言われてもわからないのですーー!」




