ep.64 祠の前、止まる風
森の奥へ進むにつれ、 風はどんどん細く、冷たくなっていった。
咲姫は胸に手を当て、 「なんか……息がしづらいのです……」 と、小さく呟いた。
果林は団子袋をぎゅっと抱え、 「うぅ……団子も冷たくなってきた~……」 と、震えている。
紗綾は周囲を見渡し、 「……木々の葉が、動いていません」 と、静かに言った。
風花は木の幹に触れ、 「森が“止まってる”ねぇ…… こんな風、普通じゃないよ」 と、優しく呟く。
風音は風の流れを読むように目を閉じ、 深く息を吸った。
「……祠の風が“止めてる”。 ここから先は、風が通らない」
咲姫はびくっと肩を震わせる。 「と、通らない……?」
風音は頷いた。 「……風が拒んでる。 “入るな”って風」
祠の姿
木々の間を抜けると、 ぽっかりと開けた空間に出た。
そこに―― 古びた祠 が、静かに佇んでいた。
苔むした石段、 ひび割れた木の扉、 周囲には枯れ葉が積もり、 まるで“時間が止まった場所”のようだった。
咲姫は思わず息を呑む。 「ここが……祠なのです……?」
リオは震える声で言った。 「……そうだ。僕たちが来たのは……ここだ」
オグマは剣の柄に手を置き、 「……気をつけろ。 何かがいる」 と、低く呟いた。
果林は団子袋を抱えたまま、 「ひ、ひぃ……帰りたい~……」 と、小さく言う。
紗綾は猫を抱きしめ、 「……猫も、毛を逆立てています」 と、静かに告げた。
風花は咲姫の肩に手を置き、 「大丈夫。風は味方だよ」 と、優しく微笑む。
“異変”の最初の姿
そのとき。
祠の扉の隙間から、 ふっ…… と、細い風が漏れた。
咲姫はびくっと跳ねる。 「ひゃっ……!」
風音は目を細め、 「……違う。これは“風じゃない”」 と、低く呟いた。
咲姫は震える声で尋ねる。 「風じゃ……ないのです……?」
風音は首を振った。 「……“風の形をした何か”。 風に似せてるだけ」
果林は団子袋を落としそうになり、 「ひ、ひぃぃ……!」 と、情けない声を出す。
紗綾は静かに言った。 「……祠の中に“何か”がいます」
リオは震える手で祠を指さす。 「……あれだ。 僕たちを襲った“気配”……!」
オグマは一歩前に出て、 「……構えろ。 来るぞ」 と、低く言った。
祠の扉が……
祠の扉が、 ギ……ギギ…… と、ゆっくりと開き始めた。
咲姫は息を呑む。 「な、なにが出てくるのです……!」
風音は風を読み、 「……“形のないもの”が来る。 気をつけろ」 と、静かに告げた。
風花は咲姫の背中をそっと押し、 「大丈夫。風は味方だよ」 と、優しく言う。
果林は団子袋を盾のように構え、 「ひぃぃ……!」 と、震える。
紗綾は猫を抱きしめ、 「……来ます」 と、静かに言った。
祠の中から、 黒い“風のような影” が、 ゆらりと姿を現した。




