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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
3章~【咲姫編】風の記憶、影の願い

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ep.58 朝の光と、もう一つの風

朝の光が宿の窓から差し込み、 咲姫は布団の中で目をぱちぱちさせた。


「ん……朝なのです……?」


果林はすでに起きていて、 団子をもぐもぐしながら窓の外を見ていた。


「おはよ~咲姫。朝の団子、おいしいよ~」


咲姫はむくっと起き上がり、 「朝から団子なのです……?」 と、半分あきれた声を出す。


紗綾は猫を抱きながら、 「……朝の風は静かですね。昨日より落ち着いています」 と、柔らかく言った。


風花は髪を整えながら、 「今日はいい日になりそうだねぇ。風が踊ってるよ」 と、微笑む。


風音は窓辺で風を読み、 「……町の外で、少しだけ“揺れ”がある」 と、静かに告げた。


咲姫が首をかしげる。 「揺れ……?」


風音は短く答える。 「……まだ小さい。でも、昨日とは違う風」


宿の一階に降りると、 オグマがすでに食事を終えていた。


宿の主人が笑顔で話しかける。 「オグマさん、今日も出るのかい?」


オグマは短く頷いた。 「……ああ。少し先まで行く」


咲姫はその様子を見て、 「オグマさん、朝から元気なのです……」 と、ぽそっと呟く。


果林は団子を抱えたまま、 「強い人は朝も強いんだよ~」 と、のんびり言う。


紗綾は静かに観察しながら、 「……この町の人たち、オグマさんを信頼していますね」 と、呟いた。


風花は微笑んで、 「守る風を持つ人は、どこでも頼りにされるよ」 と、優しく言う。


風音は風を読みながら、 「……でも、今日は“別の風”が混じってる」 と、淡々と告げた。


そのとき。


宿の外から、 ドタドタドタッ! と、慌てた足音が近づいてきた。


扉が勢いよく開き、 昨日の果物屋の店主が飛び込んでくる。


「オグマさん! ちょっと来てくれないかい!」


咲姫はびくっと肩を震わせる。 「な、なんなのです……!」


店主は息を切らしながら言った。 「市場の外で……変な人が倒れてて……!」


風音がすぐに反応する。 「……“揺れ”はそれだ」


風花は咲姫の肩に手を置き、 「大丈夫。まずは見に行こうね」 と、優しく言う。


オグマは立ち上がり、 「……案内してくれ」 と、落ち着いた声で言った。


咲姫は胸に手を当てて、 「ま、また何か起きるのです……?」 と、不安そうに呟く。


紗綾は猫を抱きしめ、 「……大丈夫です。私たちもいます」 と、静かに言った。


果林は団子を抱えたまま、 「い、行こう~……!」 と、少し震えながらも前に出る。


風音は風を読み、 「……この風は“知らせる風”。悪い風じゃない」 と、短く言った。


市場の外で倒れていた“変な人”が、 この町に新しい風を運んでくることを、 咲姫たちはまだ知らない。

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