特別記念閑話:魔法の灯と、うささまの元気(20万字突破記念回)
「……準備、できた?」
紗綾の声に、咲姫がこくんとうなずいた。 手には、小さなランタン。中には、まだ灯っていない魔法の芯。
「今日は特別な日なのです~。だから、ちゃんと灯したいのです!」
「ふふ、じゃあ、いくよ」
紗綾がそっと手をかざすと、指先から淡い光が生まれた。 それは風に揺れるように、やさしく、静かに―― 咲姫のランタンの芯に触れた瞬間、ふわりと灯がともった。
「わあ……きれいなのです~!」
「魔法の灯はね、誰かの“願い”があると、もっと強くなるのよ」
「じゃあ……お兄ちゃんが、元気になりますように……って願ったら、もっと光るのですか?」
「もちろん」
咲姫がそっと目を閉じて、願いを込める。 ランタンの灯は、ほんの少しだけ、あたたかくなった気がした。
「――って、ちょっと待った!」
茶屋の奥から、果林が団子の串を片手に飛び出してきた。
「魔法もいいけど、元気出すならこれでしょ! 焼きたて三色団子、特製“祝・記念回”バージョン!」
「わああ~! 団子なのです~!」
「団子は……魔法よりつよいのれす~!」
どこからともなく、うささまがぴょんっと登場。 すでに団子を二本くわえている。
「ちょ、うささま!? それ、まだ配ってないやつ!」
「団子は……待ってくれないのれす~。今がいちばんおいしいのれす~!」
「……もう、ほんとに自由すぎる……」
紗綾がため息をつきながらも、どこか楽しそうに笑った。
咲姫はランタンを見つめながら、ぽつりとつぶやく。
「でも……なんだか、うささまの元気って、ほんとに魔法みたいなのです~」
「うん。見てるだけで、ちょっと元気になるよね」 果林が団子をひと口かじりながら、うなずいた。
「魔法の灯もいいけど、笑顔の力って、たぶんそれ以上かもね」 紗綾がそっと言った。
「うささま、すごいのです~!」
「ふふふ……うささまは、元気の精なのれす~。 あなたに、魔法を超える元気を届けにきたのれす~!」
「……それ、どこで覚えたの?」
「さっき、茶屋の看板に書いてあったのれす~!」
「えっ、そんなのあったのですか!?」
「ないよ!!」
みんなの声が重なって、茶屋の奥座敷に笑いが広がる。 ランタンの灯は、いつの間にか、ぽうっと大きくなっていた。
それは、魔法の力だけじゃない。 笑い声と、願いと、団子の湯気と―― みんなの“元気”が、灯りに変わったのだ。
「お兄ちゃんにも、届くといいのです~」
咲姫がそっとランタンを掲げる。 その灯りは、静かに、でも確かに、 夜の空へと昇っていった。




