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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
3章~【咲姫編】風の記憶、影の願い

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特別記念閑話:魔法の灯と、うささまの元気(20万字突破記念回)

「……準備、できた?」


紗綾の声に、咲姫がこくんとうなずいた。 手には、小さなランタン。中には、まだ灯っていない魔法の芯。


「今日は特別な日なのです~。だから、ちゃんと灯したいのです!」


「ふふ、じゃあ、いくよ」


紗綾がそっと手をかざすと、指先から淡い光が生まれた。 それは風に揺れるように、やさしく、静かに―― 咲姫のランタンの芯に触れた瞬間、ふわりと灯がともった。


「わあ……きれいなのです~!」


「魔法の灯はね、誰かの“願い”があると、もっと強くなるのよ」


「じゃあ……お兄ちゃんが、元気になりますように……って願ったら、もっと光るのですか?」


「もちろん」


咲姫がそっと目を閉じて、願いを込める。 ランタンの灯は、ほんの少しだけ、あたたかくなった気がした。


「――って、ちょっと待った!」


茶屋の奥から、果林が団子の串を片手に飛び出してきた。


「魔法もいいけど、元気出すならこれでしょ! 焼きたて三色団子、特製“祝・記念回”バージョン!」


「わああ~! 団子なのです~!」


「団子は……魔法よりつよいのれす~!」


どこからともなく、うささまがぴょんっと登場。 すでに団子を二本くわえている。


「ちょ、うささま!? それ、まだ配ってないやつ!」


「団子は……待ってくれないのれす~。今がいちばんおいしいのれす~!」


「……もう、ほんとに自由すぎる……」


紗綾がため息をつきながらも、どこか楽しそうに笑った。


咲姫はランタンを見つめながら、ぽつりとつぶやく。


「でも……なんだか、うささまの元気って、ほんとに魔法みたいなのです~」


「うん。見てるだけで、ちょっと元気になるよね」 果林が団子をひと口かじりながら、うなずいた。


「魔法の灯もいいけど、笑顔の力って、たぶんそれ以上かもね」 紗綾がそっと言った。


「うささま、すごいのです~!」


「ふふふ……うささまは、元気の精なのれす~。  あなたに、魔法を超える元気を届けにきたのれす~!」


「……それ、どこで覚えたの?」


「さっき、茶屋の看板に書いてあったのれす~!」


「えっ、そんなのあったのですか!?」


「ないよ!!」


みんなの声が重なって、茶屋の奥座敷に笑いが広がる。 ランタンの灯は、いつの間にか、ぽうっと大きくなっていた。


それは、魔法の力だけじゃない。 笑い声と、願いと、団子の湯気と―― みんなの“元気”が、灯りに変わったのだ。


「お兄ちゃんにも、届くといいのです~」


咲姫がそっとランタンを掲げる。 その灯りは、静かに、でも確かに、 夜の空へと昇っていった。

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