表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
3章~【咲姫編】風の記憶、影の願い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/197

閑話:団子と修徒士と屋台の娘


閑話:団子と修徒士と屋台の娘

猫影茶屋の縁側に腰を下ろし、湯呑みを手に取る。 焙じ茶の香ばしさが、依頼帰りの疲れをじんわりと溶かしていく。 こういう時間が、いちばん落ち着く。


「……ふぅ」


一口、茶をすすったそのとき。 鼻先をくすぐる、あまったるい香り。


「はい、焼きたて! あんた、こういうの好きそうじゃないけど、試してみてよ」


振り返ると、果林が団子の串を二本、こちらに突き出していた。 あんこがたっぷり。湯気が立っている。


「……団子は茶屋で食べるもんだと思ってたけどね」


「なにそれ、偏見じゃん。団子は屋台で食べるのがいちばん! 焼きたて、あまあま、もちもち!」


「……甘すぎるのは苦手なんだよ。茶の味が死ぬ」


「えー、じゃあ何? 塩団子とか言うつもり?」


「言うよ。塩気と香ばしさで、茶の旨みが引き立つ。団子ってのは、そういうもんだ」


果林はあからさまに眉をひそめた。


「それ、団子じゃなくて“修行食”じゃん……。  団子はね、“幸せのかたまり”なの。甘くて、やわらかくて、口の中でとろけて、  ああ~生きててよかった~ってなるやつ!」


「……団子でそこまでいくか?」


「いくの! ていうか、食べ方も違うでしょ。  一気に三つ、がぶっていくのが正解!」


「それはただの暴力だ。一本ずつ、間に茶を挟んで味を整えるのが礼儀」


「団子に礼儀とかあるの!?」


「ある。修徒士の心得にも書いてある」


「うそつけ!」


ふたりの声が重なったそのとき―― 縁側の柱の影から、ふわりと白い耳がのぞいた。


「……団子は……おかわりが正義なのれす~」


「「うささま!?」」


いつの間にか、うささまがちゃっかり座布団に座っていた。 手にはすでに、茶屋の塩団子が三本。


「……あの、うささま。いつから……?」


「さっきからずっと見てたのれす~。団子の話、たのしいのれす~」


果林がぽかんと口を開けたまま、ミナと顔を見合わせる。


「……まあ、否定はできないな」


「うん……団子は、正義かも……」


そのとき、茶屋の奥から、巫女さんがそっと現れた。 手には、ほんのり焦げ目のついた塩団子。


「よろしければ、どうぞ」


差し出された団子を、果林がひと口かじる。


「……なにこれ、うまっ。  ……くっそ、認めたくないけど、うまい……!」


ミナはにやりと笑った。


「だから言ったろ。団子は、茶と一緒に味わうもんだ」


果林はむくれた顔で、もう一本を手に取った。


「……でも、次はあんた、私のあん団子食べに来なよ。  “もちもち+あまあま”の、幸せのかたまりだからさ」


「……考えとくよ」


焙じ茶の香りと、団子の湯気。 猫影茶屋の午後は、今日も静かに、でもどこかにぎやかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ