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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
第一幕~序章

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12/197

ep.12 兆し

はじめまして。 異世界転生ものを書いてみたくて、思い切って投稿してみました。 魔法が使えるようになる話ですが、いきなり強くなったりはしません。 ちょっとずつ、言葉を覚えて、魔法を学んでいく感じのゆるい成長物語です。 初心者ですが、楽しんでもらえたらうれしいです!

夜。 町の灯りがまばらになって、風の音が少しだけ強くなる頃。 空は雲ひとつなく、月が静かに浮かんでいた。 その光は冷たくもなく、温かくもなく、ただ“見守っている”ようだった。


俺は、猫影茶屋の縁側に座っていた。 焙じ茶の香りはもう消えていて、代わりに夜の空気が静かに満ちている。 胸の奥には、昼間の“囁き”がまだ残っていた。


「……クロノ、いるのか?」


誰に聞かせるでもなく、ぽつりとつぶやいた。 風が頬を撫でて、障子の隙間がわずかに揺れる。 その向こうに、屋根の影が見えた。


そこに――いた。


黒猫が、静かに座っていた。 月明かりの中で、その姿はまるで“神の使い”のようだった。 毛並みは黒く、でも深い藍のような光をまとっている。 目は閉じていたけれど、確かに“見られている”感覚があった。


俺は、声を出せなかった。 ただ、胸の奥がふっと震えた。


クロノが、ゆっくりと立ち上がる。 足音はなかった。 でも、空気が少しだけ揺れた。


そして、こちらを見た。


目が合った瞬間、胸の奥に“響き”が広がった。 それは言葉ではなく、意味でもなく、ただ“感じる”もの。 昼間の祠で感じたものに、少しだけ似ていた。


「……クロノ」


猫は、何も言わなかった。 でも、その瞳が語っていた。 風の中に、月の下に、猫神様の“意志”が宿っていた。


そして――


「ひげがゆれるとき、それが夜明けだ」


その言葉が、頭の中に響いた。 声ではない。 でも、確かに“届いた”。


【素養《Oralis理解》が成長しました】


胸の奥に、光が走った。 それは、言葉ではない。 でも、確かに“意味”があった。


クロノは、しばらく俺を見つめていた。 そして、何も言わずに、また座った。 他の猫たちも、それに合わせるように、静かに目を閉じた。


風が吹いた。 鈴の音が、遠くで鳴った。 それは、誰かが“扉を開けた”ような音だった。


俺は、その場に立ち尽くしていた。 でも、胸の奥には、確かに“何か”が残っていた。 それは、猫神様がそっと通り過ぎたような、そんな気配だった。


修徒帳の表紙に刻まれた爪痕が、ほんのわずかに温かくなった。 そのぬくもりは、猫神様の気配が“近くにある”ことを教えてくれる。


でも、それは“始まり”ではない。 まだ、誰とも繋がっていない。


俺は、静かに屋根の上の猫を見つめた。


「……いつか、誰かと一緒に歩けるかな」


その言葉は、夜の空気に溶けていった。


猫は、月明かりの中で、ただ静かに座っていた。 まるで“夜明け”を待っているように。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました! 感想やアドバイスなど、いただけたらとても励みになります。 これからも、のんびり続けていきますので、よろしくお願いします!

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