短話:うささま感謝祭③「咲姫、うささまに団子をお供えする」
「うささま、どうぞ……!」
咲姫は、両手でそっとお盆を差し出した。 その上には、まんまるの団子が三色、きれいに並んでいる。 ほんのり甘い香りが、夜風に乗ってふわりと広がった。
「うささま、いつもありがとう。今日は、咲姫が作ったの」
「おだんごぉ~!? うさちぁんのだいすきなやつぅ~!!」
うささまは、ぱたぱたと駆け寄って――
「わぁっ、ちょ、ちょっと!まだお供えしてないのに~!」
「おそなえ!? うさちぁん、かみさま!? えっ、うさかみさまぁ~!? ありがとぉ~!」
「ち、ちがうよ!? うささまは、うささまで……ああっ、もう食べてるし!」
「もっちもちぃ~……しあわせぇ~……うさちぁん、いま、しあわせのかたまりたべてるぅ~……」
咲姫は呆れたように笑いながら、そっともう一皿、隠していた団子を取り出した。
「こっちは、みんなで食べる用。うささまのは……もう、あげるってことでいいよね」
「うさちぁん、ぜんぶたべるぅ~!おそなえ、ぜんぶ、うさちぁんのぉ~!」
「だーめっ!それはみんなの分!」
「……ほんとはね、もっとちゃんとしたお供えにしたかったんだけど」
咲姫は、うささまが団子を頬張る様子を見ながら、ぽつりとつぶやいた。
「お花も飾って、きれいなお皿に盛って……“ありがとう”って、ちゃんと伝えたかったの」
「ん~? さきちぁん、なにいってるのぉ~? いま、うさちぁん、しあわせだから、だいじょぶぅ~」
「……うん、そうだね。うささまが笑ってくれるなら、それでいいんだよね」
咲姫は、そっとうささまの耳をなでた。 ふにゃっとした笑顔が返ってくる。
「でも、来年はもっとがんばるからね。うささまのために、もっともっと、かわいいお団子つくるんだから」
「さきちぁんのだんご、かわいいよぉ~……うさちぁん、いま、かわいいのたべてるぅ~……」
「……それ、褒めてるの?」
「ほめてるぅ~!さきちぁん、だいすきぃ~!」
「……もう、うささまったら」
咲姫は、くすっと笑って、そっと自分の団子をひとつ口に運んだ。 ほんのり甘くて、ちょっとだけ、しょっぱかった。




