短話:うささま感謝祭②「果林、師匠を真似る」
「……あれで、ほんとに酔ってるのかな」
果林は、ふらふらと踊るうささまを見つめながら、湯気の立つ盃を手に取った。 中身は、自分で仕込んだ“花酵母のしゅわしゅわ酒”。 香りはいい。味も、たぶん悪くない。 でも、うささまみたいに――あんなふうに、自由にはなれない。
「ちょっとだけ、真似してみようかな……」
くい、と一口。 しゅわしゅわが舌をくすぐり、鼻に抜ける花の香りがふわりと広がる。
「……っ、けほっ、けほっ……!」
「おおっ、果林もいったかぁ~!うさちぁんの弟子ぃ~!」
「ち、違っ……!私は、弟子じゃ……!」
「かりんちぁん、のんでのんで~!しゅわしゅわは、うさちぁんのともだちぃ~!」
「ともだちって何……?」
果林は自分の言葉に、思わず笑ってしまった。 さっきまでの冷静さが、しゅわしゅわの泡に溶けていく。
「……もう一口だけ」
そう言いながら、またひとくち。 今度はむせずに飲めた。 頬がぽっと熱くなる。 視界が、ほんの少しだけ、きらきらして見える。
「かりんちぁん、いいかんじぃ~!そのまま、うさちぁんとおどろ~!」
「えっ、踊るの!? いや、私は……!」
「だいじょぶぅ~!うさちぁん、足もとふわふわだからぁ~!」
「それ、全然だいじょばないやつ……!」
そう言いながらも、果林の足は自然と一歩、うささまの方へ。 盃を片手に、くるりと回ってみる。 ふわっとスカートが揺れて、耳の先がほんのり赤くなる。
「……あれ、なんか、楽しいかも」
「かりんちぁん、さいこう~!うさちぁん、うれしぃ~!」
うささまが果林に抱きつこうとして、見事にすってんころりん。 そのまま二人、ころころと転がって、笑い声が夜空に弾けた。




