ep.52 風のあと、焚き火のまわりで(閑話)
モンスターが倒れ、集落に静けさが戻った夜。 焚き火の火がぱちぱちと音を立て、 昼間の騒ぎが嘘のように穏やかな時間が流れていた。
咲姫は毛布にくるまりながら、 「……こわかったのです……」 と、ぽそっと呟いた。
果林は団子を焼きながら、 「咲姫、あのとき目がまんまるだったよ~。団子落とすかと思った~」 と、くすくす笑う。
「お、落としてないのです!」 咲姫はむくれながらも、頬はほんのり赤い。
紗綾は猫を抱きしめ、 「でも、無事でよかったです。民の方々も安心していましたし」 と、静かに言った。 猫は満足そうに喉を鳴らす。
風花は焚き火の火を整えながら、 「怖かったね。でも、ちゃんと守られたよ。風も、オグマも」 と、優しく微笑んだ。
風音は煙の流れを見つめ、 「……あれは弱いモンスター。でも、民には脅威」 と、淡々と呟く。
果林が団子をくるくる回しながら、 「オグマさん、すごかったね~。あんなに強いなんて~」 と、目を輝かせる。
咲姫は思い出して、 「……こわいのです。でも、なんか……優しいのです」 と、小さく呟いた。
風花は咲姫の頭をそっと撫でる。 「うん。あの人は“守る風”を持ってるよ」
風音も静かに頷く。 「……悪い風じゃない」
少し離れた場所では、 冒険者たちが焚き火を囲んで話していた。
「オグマが戻ってきてくれて助かったな……」 「民の連中も安心しただろう」 「しかし、あの子たち……強くなるかもしれんぞ」
咲姫たちには聞こえない距離。 けれど、風だけがその言葉を運んでいた。
果林が団子を咲姫に差し出す。 「はい、咲姫。甘いの食べたら元気出るよ~」
咲姫はぱぁっと顔を明るくして、 「食べるのです!」 と、勢いよく手を伸ばした。
風花が笑う。 「元気になったねぇ」
紗綾は猫を撫でながら、 「……明日は、どんな風が吹くのでしょうね」 と、静かに呟いた。
風音は焚き火の火を見つめ、 「……遠くの風が呼んでる。明日は、少し歩く風」 と、短く言った。
咲姫は団子をもぐもぐしながら、 「じゃあ……明日もがんばるのです」 と、小さく笑った。
焚き火の火がふっと揺れ、 夜の風が優しく吹き抜けた。




