ep.50 民の暮らしと風の通り道
朝の光が差し込み、咲姫たちはオグマとともに小さな街道を歩いていた。 昨日の緊張が嘘のように、風は穏やかで、鳥の声が響いている。
咲姫は周囲をきょろきょろ見回しながら、 「なんか……町の匂いがするのです」 と、鼻をひくひくさせた。
果林は団子の袋を抱え、 「人の匂いって、なんか安心するよね~」 と、のんびりした声で言う。
紗綾は猫を抱いたまま、 「……あそこ、煙が上がっています。誰かが朝の支度をしているのでしょう」 と、指をさした。
風花は優しく微笑む。 「民の暮らしは、風が柔らかいねぇ。踊りたくなる風だよ」
風音は静かに頷いた。 「……風が整ってる。ここは“生活の場所”」
街道の先には、小さな集落があった。 畑を耕す人、洗濯物を干す人、子どもたちが走り回る姿。
咲姫は目を丸くした。 「わぁ……こんなに人がいるのです……!」
果林は団子を落としそうになりながら、 「すごい~! 団子屋さんとかあるかな~?」 と、目を輝かせる。
紗綾は静かに微笑む。 「こういう場所を見ると、安心しますね」
そのとき、 畑仕事をしていた女性がオグマに気づき、ぱっと顔を明るくした。
「オグマさん! 無事だったんですね!」
オグマは少し照れたように頭をかいた。 「……ああ。心配かけた」
子どもたちも駆け寄ってくる。 「オグマ兄ちゃんだ!」 「帰ってきたの?」
咲姫はその光景を見て、ぽつりと呟いた。 「……なんか、優しいのです」
風花は微笑んで、 「そうだね。強い人ほど、民に優しいんだよ」 と、柔らかく言った。
風音は風の流れを読みながら、 「……この風は“信頼”の風」 と、静かに呟いた。
女性が咲姫たちに気づき、 「あら、オグマさんのお仲間?」 と、にこやかに声をかけてくる。
咲姫は慌ててぺこりと頭を下げた。 「は、はじめましてなのです……!」
果林も団子を抱えたまま、 「こんにちは~! 団子食べます~?」 と、なぜか団子を差し出す。
紗綾は丁寧に挨拶し、 「お世話になります」 と、静かに頭を下げた。
風花は優しく微笑み、 「少しだけ、風を通させてもらうね」 と、踊り子らしい挨拶をする。
風音は短く、 「……よろしく」 とだけ言った。
集落の人々は温かく迎えてくれた。 その穏やかな空気の中で、 風がふっと揺れた。
風音が眉を寄せる。 「……風が跳ねた。何か、来る」
オグマが立ち上がる。 「……ここから先は、俺が前に出る」
咲姫は胸に手を当てた。 「また……どきどきするのです」
風花は咲姫の肩に手を置き、 「大丈夫。風はまだ優しいよ」 と、そっと囁いた。




