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ひげがゆれるとき  作者: ねこちぁん
3章~【咲姫編】風の記憶、影の願い

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ep.49 オグマ加入

夜明け前の空気は、まだ冷たかった。 焚き火の残り火がかすかに赤く光り、咲姫たちは毛布にくるまって眠っている。


その静けさを破ったのは、 地面の奥から響く、ひとつの重い足音 だった。


風音が目を開けた。 「……来た」 その声は小さいのに、焚き火の周りにいた冒険者たちが一斉に顔を上げる。


風花は咲姫の肩にそっと手を置き、 「大丈夫。怖がらなくていいよ」 と、優しく囁いた。


咲姫は目をこすりながら、 「ん……? なんか、来るのです……?」 と、まだ眠気の残る声で呟く。


紗綾は猫を抱きしめ、風の流れを読むように目を細めた。 「……悪い気配ではありません。けれど、強いです」


果林は団子の串を握ったまま、 「つ、強いって……どれくらい~?」 と、ひそひそ声で聞く。


風音は短く答えた。 「……風が押されるくらい」


その瞬間、 木々の間から、ひとりの男が姿を現した。


背は高く、肩幅は広い。 鎧は傷だらけで、旅の埃がついている。 けれど、その目は静かで、どこか優しさすら感じさせた。


冒険者たちがざわめく。 「オグマ……!」 「本当に来たのか……!」


男はゆっくりと歩み寄り、焚き火の前で立ち止まった。


「……騒がせたな」 低く、落ち着いた声だった。


咲姫はびくっとしながらも、 「お、おはようなのです……?」 と、小さく挨拶する。


オグマは咲姫を見て、ほんの少しだけ目を細めた。 「……ああ。おはよう」


その声は重いのに、不思議と怖くなかった。


風花が一歩前に出て、柔らかく微笑む。 「あなたが“足跡の主”だね。ようこそ。まずは、座っていく?」


オグマは少しだけ驚いたように眉を動かし、 「……いいのか?」 と、低く尋ねる。


風音が静かに言った。 「……悪い風じゃない。座っていい」


オグマは短く頷き、焚き火のそばに腰を下ろした。 その瞬間、風がふっと落ち着いた。


果林が団子を差し出す。 「よかったら……どうぞ~。朝の団子、おいしいよ~」


オグマは団子を見て、少しだけ表情を緩めた。 「……ありがたい」


咲姫はその様子を見て、 「なんか……こわくないのです」 と、ぽつりと呟いた。


紗綾は微笑んで、 「ええ。強いけれど、優しい人です」 と、静かに言った。


風花が焚き火に薪をくべる。 「じゃあ、改めて。あなたの名前、聞いてもいいかな?」


オグマは火を見つめたまま、短く答えた。


「……オグマ。しばらく、世話になる」


風がひとつ、柔らかく鳴った。

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