閑話:焚き火のまわりで
夜の帳が降り、焚き火の火がぱちぱちと音を立てていた。 昼のざわめきが嘘のように静かで、風もようやく落ち着いている。
咲姫は焚き火の前で、ほかほかの団子を両手で持ちながら、 「今日は……なんか、いっぱい動いたのです」 と、ぽつりとこぼした。
果林は隣で団子を焼きながら、 「咲姫、昼のときすごい顔してたよ~。びっくりして団子落とすかと思った~」 と、くすくす笑う。
「お、落としてないのです!」 咲姫はむくれながらも、口元は緩んでいた。
紗綾は猫を膝に乗せ、静かに火を見つめていた。 「……でも、無事でよかったです。冒険者さんたちも、落ち着いたみたいですし」 猫は満足そうに喉を鳴らす。
風音は焚き火の煙の流れを見ながら、 「……風は静か。でも、まだ“終わり”じゃない」 と、淡々と呟いた。
風花はその言葉に、ふわりと微笑む。 「そうだね。でも、今は休もう。明日の風は、明日になってから読めばいいよ」 踊り子らしい、包み込むような優しい声だった。
冒険者たちも少し離れた場所で焚き火を囲み、 「いやぁ、昼は焦ったな……」 「足跡の主、明日には来るかもしれん」 などと、ぼそぼそ話している。
果林が耳をぴくりと動かした。 「ねぇねぇ、“足跡の主”ってどんな人なんだろ~?」
咲姫は団子をもぐもぐしながら、 「こわい人じゃないといいのです……」 と、小さく呟く。
風音は火の揺れを見つめたまま、 「……強い。でも、悪い風じゃない」 とだけ言った。
風花は咲姫の頭をそっと撫でる。 「大丈夫。どんな人でも、まずは挨拶してみようね」
咲姫はこくんと頷いた。 「……うん。明日、ちゃんと挨拶するのです」
焚き火の火が、ふっと揺れた。 遠くで、重い足音がひとつだけ響いた気がした。
でも、今はまだ夜。 明日の風は、まだ誰も知らない。




