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「ふふふ~ん♪」
鼻歌交じりでパソコンのキーボードを打つ。
今日の私はすこぶる機嫌がいい。
なんたって、いつもは始業開始直後から鳴り出す電話がまったく鳴らないのだ。
とても平和な日である。
思わず鼻歌を歌ってしまいたくもなるというものだ。
この時の私はまさかトラブルに巻き込まれるなんて微塵も思ってもみなかった。
平和な日などないのが情報システム部だということを私は忘れていたのだ。
ドンドンドンッ!
部屋のドアを思いっきりノックする音が聞こえる。
こちらの返答も待たずにドアがガチャッと勢いよく開く。
「ちょっと!!電話が通じないんだけど!!なんとかして頂戴!」
そう言って怒鳴り込んできたのは総務の数井さんだった。
真っ赤なぷるるんとした唇が印象的な女性だ。
「え?電話??鳴ってませんよ?」
電話になったら出る。これが基本。
今日は全然電話が鳴らなかったので電話に出た覚えがない。だって、電話が鳴らないのだ。出る必要はないだろう。
「そうじゃないわよ!!電話がかけられないし、受けられないのよ!!早くなんとかしてちょうだい!!」
「え?電話は情報システム部では……。」
電話が情報システム部の管轄だなんて一度も聞いたことが無い。
私は困ったように安藤さんに視線を彷徨わせる。
安藤さんも困ったように笑った。
「電話は、情報システム部の管轄ではありませんよ。数井さん。」
困っている私の横から安藤さんが助け舟を出す。
「じゃあ、どこの部署が担当だっていうのよ!機械は全部情報システム部の管轄でしょ?責任逃れしないでくださるかしら?」
数井さんはヒステリックに叫んだ。
その甲高い声は耳に痛い。
「……責任逃れなんてしてませんよ。電話の請求書を受け取っているのはどの部署ですか?」
機械全部が情報システム部の持ち物だと思われても困る。
そう思った私はどこの部署が担当しているのか調べるために、まずは請求書を受け取る部署を確認する。
請求書なら最終的に総務部が確認するから、数井さんも知っているはずだ。
「総務部に決まっているじゃないの。」
「じゃあ、電話は総務部の管轄なんじゃありませんか?」
「電話のことなんて何も知らないわよ。機械なんだからなんとかしなさいよ!業務に支障が出ているのよ!!重要な電話が取れなかったらどうしてくれるのかしら?」
なおも数井さんは高圧的に伝えてくる。




