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第81話 手がかり

 杖が保管されていたという場所に案内された僕たちは、早速と現場検証を行う――と聞こえは良いのだが、科学的技術の無いこの世界、する事にも限界はある。

 仮にその技術があったとしても、一般人だった僕に細かい知識を求めるのは無理というものだが……。

 しかし、技術が発達していない時代でも捜査というものは行われていて、犯人を捕まえることだって出来ていたことを考えると、今僕たちに必要なのは地道な捜査であることは間違いない。

 ちなみに、この世界では魔法というものが発達しているのは知っての通りだが、残念なことに唱えただけで犯人がわかるとかいう便利なものは存在しないそうだ。

 世の中そう上手くはいかないものである。 


 部屋の中には何名かの警備の人が今だに常駐している。

 それもその筈、優勝賞品は盗まれてしまったのだが、まだそれ以外の賞品は保管されているのだから。

 そこから考えると、犯人はピンポイントで杖を狙った、それ以外には興味が無かったという可能性が高い。


「何かわかる?」


「森の中じゃないから……難しいの」


 自然界では大いなる力を発揮するダークエルフの能力も、さすがに人工物の中では無理らしい。

 逆に自然の中ならば、森の声に耳を傾けることが出来るそうだ。

 うん、覚えておこう。 

 

 その時の状況を警備していた人に確認したところ、何か甘い匂いがした途端に意識が遠のき、目が覚めた時には既に杖は無く、中にあったトラップの魔法陣も見事に無効化されていたとのこと。

 犯人の目撃者はいない、今のところ手掛かりは無しだ。


 部屋の北側にあるケースは中身が空になったまま放置されていた。

 この中に例の杖が保管されていたとのこと。

 僕はそれに近づき、手で触れながら色々と調べてみる。

 内側にはマジックでよくある上げ底とか鏡とかが入っている様子は無い。

 まあ、そんな単純なものでもないか……。


「あれ?」


 ふと頭の上のミウが疑問符を投げかける。


「ミウ、どうしたの?」


 その僕の問いに答えず、ミウはジャンプしてフロアへと着地する。


「う〜ん?」


 ちょこちょこと動きながら何かを辿るミウ。

 真剣なようなので、僕は黙ってその様子を観察するに留める。


「カナタ。この下って何?」


 暫くして、ミウが漸く顔を上げて僕に問いかけた。


「ちょっとまって、この下だから……、うん、動力室だね」


 施設の照明やその他常設の魔法道具の魔力を一手に担っている部屋。

 大きな魔石の保管場所、受け取っていた見取り図からはそれが丁度この部屋の真下にあるのがわかる。

 ちなみに魔石とは、その名の通り魔力を内包した石のことで、この世界のエネルギーの一つとして重宝されている資源だ。

 大きい物から小さい物まで多種多様、もちろんこの施設で使われている物は希少な巨大魔石である。


「入れるかな?」


「うん、頼んでみるよ」


 近くにいた警備の人に声をかける。

 お願いしてみたところ、警備員と一緒であるなら中に入れてもらえるとのこと。

 同伴を依頼し、僕たちは早速と動力室に向かう。


 扉の鍵を開けてもらい、動力室内部に足を踏み入れる。

 薄暗い部屋の中心で青白く淡い光を放っている巨大な魔石。

 正八面体のそれからは確かに大きな魔力を感じる。

 そこからはいくつもの配線のようなものが伸びており、恐らく電力のように色々な場所に動力を供給しているのだろう。


 僕の頭から飛び降りたミウは、何かを確認するかの様にぐるぐるとその周りを回っている。

 そして一言――、


「うん、多分そうだね」


「ミウ、何かわかったのか?」


「混じりっ気がある。多分犯人はここを利用したんだよ」


 ミウが感じたのは魔力の痕跡。

 現在進行形で動力として流れている魔力とは混じり合わない異質な魔力。

 恐らく魔石から出る魔力の流れに乗せて魔法を発動、それが保管場所まで届き警備を昏睡させたのではないか。

 それがミウの仮設である。

 それが正しいとすれば……。


「その時のここの警備ってどうしてましたか?」


 連れ添ってくれている警備員に僕は質問する。


「いや、特に変わったことは無かった筈だけど……」


「……警備の人の話を聞きたい」


 ミサキが畳み掛ける。


「あれ、そういえばまとまった休みを取るとか言っていたな」


「――その人の名前と居場所を教えてくれませんか?」


 当日の警備担当はディエルという男。

 ディエルが保管場所の鍵も入手可能であることも確認できた。

 これは、どうやら当たりかな。

 でも、事件からかなり時間が経っている。

 はたして間に合うかどうか……。


 僕たちは警備員にお礼を言い、急ぎディエルの家へと向かった。




 ディエルの家は王都の繁華街から外れた場所にある緑の屋根の家。

 すぐにわかる筈との言葉を信じ、急ぎ足でその場所まで向かう。


「ミサキ、アリア。大丈夫?」


 僕は後ろの二人に声をかける。

 体力は人よりも多少あるとはいえ、やはり心配だ。


「……問題ない」


「あっ! カナタさん、前なの!」


「えっ!? うわっ!」


 突然の衝撃に、僕は尻餅をつく。

 僕の目の前には、同じように尻餅をついた男の姿が……。

 どうやら人に正面からぶつかってしまったようだ。


「すいません。大丈夫ですか?」


「あっ、はい」


 すぐさま立ち上がった僕は、倒れていた男を助け起こす。

 見た感じでは目立った怪我は無いようだが……。


「何処か痛みは無いですか。あれば治療させて下さい」


「いえ、問題ないです」


 治癒魔法の使用を願い出るが、必要ないと断られた。

 どうやら怪我自体無かったようだ、良かった。


 その男は自らのお尻を叩き、軽く埃を払うと、持ち物である大きめのズタ袋を背負い直す。

 そして僕らに軽く会釈をして、そそくさとその場を立ち去っていった。


 ディエルの家はそこからほんの少し歩いたところにあって、他に緑の屋根の家が無かった為にすぐわかった。

 早速、木製の玄関を叩いて中からの返事を待つが、特に反応は無い。

 それどころか人の気配が中から感じられない。

 やはり一足遅かったか。


「坊やたち、どうしたんだい?」


 そんな時、恰幅の良いおばさんが後ろから声をかけてきた。


「はい、ディエルさんに会いたかったんですが……」


 おばさんはその僕のセリフに首を傾げる。


「可笑しな事をいう子だねぇ。さっき坊やとぶつかっていただろうに……」


 その言葉を理解するのに、僕は数秒の時間を要した。


「カナタ!!」


「うん、わかってる!」


 まだそう遠くには行っていない筈。

 僕たちは急ぎ来た道を引き返し、彼の後を追った。

 

 

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