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第62話 妖精たちの挽歌

何となく思いつきで書いてしまいました。

「カナタ、あそぼ、あそぼ!」


「ヒマしているんだったら遊ぼーよ!」


 妖精。

 一般的にも広くその名が知られているこの種族は、気まぐれで自由奔放なことで有名だ。

 女神様に連れられてイデアへと来た彼女らもその例に外れる事は無かった。

 農園の様子を見に来た僕を発見した彼女らは、暇つぶしを見つけたとばかりにその周りを旋回する。


「いや、ヒマじゃないから後でね」


 妖精たちは、揃って「え〜っ! 何で〜!」と不満を口にする。


「……あっちにいってなさい」


 後から現れたミサキの姿を見て、妖精たちは警戒心をあらわにする。


「ミサキコワイ、ミサキコワイ ガクガクブルブル……」


 中にはトラウマでも背負っているかのような独り言を呟く妖精もいた。

 僕は、「今日は忙しいけど、また後で遊ぼうね」と触れられるかわからないその頭を撫でて正気に戻してあげた。


「ミサキ、何だか怖がられてるね」


 ミウがミサキにツッコむ。


「……仕方ない。……たまたま」


 あれのどこがたまたまだったのか聞かせて貰いたいものだ。

 まあ、それはともかく、先ずはやるべき仕事を片づけなくてはね。

 僕は畑で働くオークや魚人の元へと向かった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 イデアのとある一角。

 そこでは妖精たちが集まり、話し合いを行っていた。


「では、これから重要な会議を行いたいと思います」


 議長役らしい妖精が胸を張りつつ宣言する。

 鼻の下につけている黒い何かは、どうやら髭のつもりのようだ。


「先生!」


「はい、ピコくん。発言を許可します」


「カナタとお近づきになるには、ミサキが邪魔だと思います!」


「そうだね〜。あれだけ良い匂いのする人間は珍しいから、ぜひお近づきになりたいよね〜」


「ミウとアリアは優しい感じがするの」


「デモ、ミサキコワイ、ガクガクブルブル……」


 この場にはイデアにいるほとんどの妖精が集まっている。

 黒板のようにあつらえた小さいボードには、『緊急会議! カナタ奪還作戦!!』と書いてあった。


「ふむ。ではミサキがいない隙をついてお近づきになるということで良いかね」


「「「さんせ〜い!!」」」


「では、作戦ですが……。意見のある人?」


「「「はい、はい、は〜い!」」」


 その会議のようなものは夜通し続けられていたようだ。





 そして翌日、その作戦は妖精たちによって実行に移される。




 実行レポートその1 ミサキ誘い出し作戦


「ミサキ、遊ぼ〜」


「……嫌」


 そっけなく断られ作戦失敗。




 実行レボートその2 お風呂でばったり作戦


 カナタが風呂に入る時間を見計らい、隙を見て侵入を図る。


「「「突撃〜!!」」」


「……甘い。……私も駄目なのに許すわけにはいかない」


 その気配を察知したミサキに阻まれ作戦失敗。




 実行レボートその3 寝室でドッキリ作戦


 夜も更けた頃を見計らい、カナタの部屋へと侵入を図る。


「「「突撃〜!!」」」


「……甘い。(以下略)」


 あえなく作戦失敗。




 実行レポートその4 とにかく突撃作戦


「「「突撃〜!!」」」


「……(以下略)」


 作戦失敗。






「隊長殿! 敵は強大です。作戦は全て失敗、被害甚大です!!」


「うむ、犠牲者に黙祷を捧げよう」


 迷彩服のコスプレをした妖精たちが胸に手を当てて頭を垂れる。

 何処からともなく聞こえてくる音楽を背に、みな涙を流していた。


「ミサキ〜。やり過ぎちゃ駄目だよ」


「……誰も怪我をしていないし、死んでもいない」


 その妖精劇場をしらけた目で見ながら反論するミサキ。

 ミウに関しては、何かを察知したカナタに頼まれ、ミサキのお目付け役ストッパーとして同行している。



「ねえ、何でそんなにカナタにこだわるの?」


「私たちは生物の本質に敏感です。あんなに素晴らしい匂いのする人はいません! もちろん異性限定です!!」


 ミウの問いに一人の妖精が熱弁する。

 その目には揺るぎない決意が宿っていた。


「ねえ、ミサキ。周りを飛び回るくらい良いんじゃない?」


 その妖精たちの熱気に押されたミウがミサキに譲歩を迫る。


「独り占めは良くないぞ!」


「「「そうだ! そうだ!」」」


 ミウの援護を受け調子に乗った妖精たちをミサキが目線で黙らせ、一つの案を提示する。

 ミウによる立会の元、こうして話し合いの場は設けられたのであった。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 

 最近、妖精たちを農園や森だけでなく、別荘の中でも多く見かけるようになった。

 ミサキとの確執も無くなったようなので、それは良い事ではあるのだが、変わったことが一つ。


「奥様、花の蜜をあしらった紅茶だよ。飲んで」


「奥様、良く熟れた果物だよ。あげる」


 妖精たちは何故かミサキの事を奥様と呼ぶようになっていた。

 そして僕の事も――


「旦那様、遊ぼー!」


「旦那様、お散歩行こうよ〜」


 僕はミウに目線を送る。


「ミウ、これは……」


「呼び方くらい良いんじゃない。カナタはカナタだし。そんな事よりミウとも遊ぼうよ♪」


 ミウに言われるがまま、妖精たちをつれて外へ散歩に出かけた。

 旦那様という呼び方については、もちろんその日のうちに却下したことも付け加えておこう。

 



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