第54話 残された方法
「えっ!? 何で……」
「うむ。調べてみないとまだわからん。カナタたちも来てくれ」
ゴランたち数人と供に、僕たちは祠のある場所へとしばらく歩き、やがて目的の場所へと辿り着く。
一見何もない森の一角でオークたちが詠唱を行うと、いつか見た建物が僕たちの眼前に現れた。
建物に近づき扉を開けるゴラン。
台座の上で淡い光を発する宝玉を確認し一言、
「むぅ……、宝玉の力が弱まっているな」
「はい。だいぶ光が弱まっております。このままでは不味いことになるかと……」
術師らしきオークの言葉を受け、顎に手で触れ考える仕草を取るゴラン。
僕は黙ってゴランが話し出すのを待つ。
「ふむ。これは術式の問題では無いな。恐らく森の力が弱まっている」
「森の力?」
ゴランの説明によると、ここで施されている封印の術式は、宝玉を媒介として自然の力を取り込み、それを作用させることにより完成しているとのこと。
それってもしかして……。
「ああ、儂も気付かなかったが、その魔力の木の伐採が原因である可能性が高いな」
「やっぱりそうか」
森が無くならなければ大丈夫だと思っていたが、思わぬところに落とし穴があったものだ。
これでは伐採が行われること自体が危険ということになる。
「封印の状態は昨日までは何ともありませんでした。推測するに、まだ大きな開発が続いているかと――」
術師のオークが情報を補足する。
「うむ。やはり人間の欲は際限がない。早かれ遅かれ封印は解かれるだろう。まったく……、儂らの役目がこんなことで崩壊しようとは……」
ゴランが悔しそうに歯ぎしりする。
「それで、封印はいつまで持つの?」
そう、それが一番肝心だ。
「恐らくですが……、このペースで力が弱まれば二・三日で解けてしまうかと」
二・三日か……、早いな。
僕は顔を上げ、ゴランの顔をまっすぐ見据える。
「延ばせるかわからないけれど、こっちでも出来る限りの事はしてみる。ゴランたちは――」
「儂らは戦闘の準備を整えよう。ご先祖様にも成し得なかった魔物討伐、今こそ果たしてくれようぞ!」
宝玉を睨み力強く語るゴラン、その言葉にはある覚悟が感じられた。
今はとにかく時間が惜しい。
僕たちはゴランと一旦別れ、急ぎ現状の確認へと向かった。
木が倒され、運び出されている。
その場所で作業する人数は前回確認した時のおよそ倍。
こうして見ている間にも森林破壊は着々と進んでいく。
何だか前より状況が悪くなっている気がする。
ギルドは何をやっているんだ!?
さらによく観察すると、2グループが一連の作業を競うように行っていた。
まさか、これが作戦の結果か……。
「はい、今予想された通りです」
どこからともなく聞こえた声の方へ振り向く。
そこには黒装束を身に纏った男が陽炎の如く立っていた。
僕は接近したことに全く気付かなかった。
「誰だ!!」
僕はとっさに剣を構える。
「ご安心下さい、私はギルドの者です。貴方がカナタさんですね?」
男は両手を挙げて敵意が無い事を示しながら語りかけてきた。
僕は構えを解かぬまま無言で頷く。
「ベラーシのギルドマスターより伝言です。『作戦は失敗だ。敵対貴族同士の利益による和解が成立してしまった。冒険者を数パーティー派遣したので最悪の事態を踏まえて対処を頼む』とのことです」
「対処……ですか?」
「はい。カナタさんたちパーティーのランクも踏まえますと、主に村人たちの避難誘導になるかと思います。詳しくは派遣された冒険者パーティーに確認してください」
「もうその方法しか残されていないんですね……」
「ええ、残念ながら」
目の部分以外は覆面で隠されている為、男の顔色は窺えない。
「ここで強制的に働かされている村人たちはどうなるんですか?」
「避難勧告を村に出します。避難する村人に対して貴族は労働の強制はできません」
なるほど、そういう決まりがあるわけね。
「わかりました。僕たちはこれから村に向かえば良いですか?」
「はい、他の冒険者の方も幾人かは着いているはずです。それでは、よろしくお願いします」
その言葉を最後に、男は消えるようにその場を去っていった。
僕は後ろを振り向き皆に告げる。
「聞いての通りだ。村に行こう!」
「うん。了解だよ!」
僕たちは伐採現場に背を向け、村へと向かった。
村の中では慌ただしく人が往来していた。
ギルドからの避難勧告とやらが伝わったのだろう。
木製のリアカーに一生懸命大きな荷物を積む人。
何をして良いかわからず只おろおろとしている人。
森の入り口で誰かの帰りをじっと待つ人。
癒えかけていた傷であるワームの記憶、それがどうやら村人たちの中で眠りを覚ましたようだ。
その村人に紛れて、何人かの冒険者の姿が僕の目に映る。
見知った人たちの姿を見つけた僕は、その集団に近寄り声をかける。
「お久しぶりです、ジンさん。それにペールさん、シアラさんも」
「うむ、久しいな」
「やあ、思ったより元気そうじゃないか」
「こんにちは。またよろしくね」
そう、以前お世話になった緑の旅団のメンバーの三人、どうやら相手もこちらを覚えてくれていたようだ。
「何か色々大変だったようだね。カナタくんたちはトラブルに縁がある体質なのかな?」
「いや、そうでない事を願いたいです」
違いますよね? 女神様。
問いかけるも返事は無かった。
「さて、早速だが今回は私たち緑の旅団が全体の指揮を執る。そこでだ、カナタくんたちには村の人たちの避難誘導をお願いしたいのだが――」
「すいません。出来れば魔物の対処の方に加わりたいのですけど、駄目ですか? ワームとの戦闘経験はありますからご迷惑はかけません」
ジンさんの依頼に対し、僕は戦闘チームへの配置をお願いする。
オーク達のこと、そして封印されている魔物のこともある。
それらの対処の為にも、戦闘チーム配属でないと身動きが取れない。
「ふむ。どうしたものか……」
考え込むジンさん。
そこへペールさんからの助け舟が入る。
「良いんじゃないの。低ランクの冒険者は何組かいるからそっちに任せれば。実際に戦える人間はこの際多い方が良い」
「……ふむ、わかった。ではそのようにしよう。だが、くれぐれも無茶をしてくれるなよ」
「はい、ありがとうございます」
これで何とか戦闘チームに加わることが出来た。
後はオークたちとの連携をどうするかだな。
「まだ森の中で作業をしている村人もいる。動き出すのは冒険者も揃う明日になってからだ。カナタくんたちは今のうちに身体を休めておいてくれ」
そう言い残すと、ジンさんたちは新しく辿り着いた冒険者の元へと向かっていった。
幸いにも出来た空き時間、僕たちにはするべき事がある。
「今のうちにゴランの所に行こう!」
現状が見えてきた今、連携の為に状況説明しにいかなければならないだろう。
「……ええ、行きましょう」
僕たちは再び村を抜け出すのであった。
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