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第187話 何よりも速く!!

「言葉はわかるの?」


「……ああ」


「貴方は何者なの?」


「ピサロ……闇の蜥蜴に所属……」


「攫った子はどうするつもりなの?」


「……交渉の材料…………用を為さなければ…………」


 虚ろな目をしながら語る男の話の内容に嫌悪感を覚えるアリア。

 しかし今は時間が何よりも大事な状況、彼女はそれを表に出すことは無い。


 宿の部屋の中は焚かれた薬草により薄っすらと煙が立ち込めていた。

 布で口元を隠したアリアが、男の耳元で質問を再開する。


「女の子をどこに連れて行ったの?」


「……それは…………」


 口ごもる男に対し、アリアは先程よりも強い口調で問いかける。


「女の子をどこに連れて行ったの?」


「…………ラバンの森の中にあるアジト……」


「そこに仲間はどれくらいいるの?」


「……5人……」







 尋問を終え、大きく息を吐いたアリアは、部屋の中央に置いた薬草の火を消す。

 そして小窓にカーテンのように引っ掛けてあった布を取り払い、鍵を開けて窓を全開にした。

 立ち込めていた煙が逃げ場を求めて屋外に駆け出すのと同時に、新鮮な空気が部屋の中に流れ込んでくる。


「もうOKなの」


 アリアはドアの外に向かって声をかけた。

 それを聞いたミウとポンポがドアを開け中に入ってくる。


「わかったの」


「おお〜っ! アリア、凄い!」


 ミウの心からの感嘆に、アリアは照れ臭そうに頬を染める。


「上手くいって良かったの」


 アリアが小さい頃の記憶を頼りに、見よう見まねで行った行為。

 それは一族が自らの種族を守る為、侵入者から情報を聞き出す為に使われていた秘術であった。

 相手にも後遺症を残さぬよう特殊な調合を行うところにダークエルフの種族としての優しさの一端が垣間見える。


「それで、ロゼは何処に?」


「ラバンの森に捕らえられているの。急ぐの」


「うん。なら、カナタたちには書置きを残しておけば良いね」


 アリア、ポンポが頷く。


「問題ないです〜! 悪者はやっつけるです〜!」


「調子に乗らないの。失敗できないの」


「わかってるです〜! ――ところで、ラバンの森ってどこにあるです〜?」


 そのセリフに、ミウとアリアはお互いに目を見合わせる。

 そして暫しの沈黙。


「うん、先ずはそこからだね」


「そうなの。そこからなの」


「そうなのです〜?」


 誤魔化すように頷き合うミウとアリアだったが、状況が理解できていないポンポがそれを指摘する事は無かった。




 宿の従業員が森の位置を知っていたことが幸いし、ミウたちは目的地へと向かうべく間を置かずに街を出る。

 そこには当然、馬車を引いたユニ助も存在していた。

 そして街道を逸れ、人気が無くなった所でユニ助が本領を発揮する。


「しっかり掴まっているのだぞ!」


 一瞬、景色が歪むようにぶれるのと同時に、慣性により皆の身体に強烈なGがかかる。

 ミウ、アリアと向かい合うようにして正面を背にして座っていたポンポが、それによって大きく前につんのめり、勢い余って2人に向かって頭から突っ込んだ。

 サッと両脇に躱したミウとアリアの目に映った光景、それはまるでシンクロの選手のように頭を下にして足を宙に浮かせているポンポの姿であった。


「あ、危ないです〜!」


 頭を抱えて起き上がるポンポの抗議も、本気のユニ助には届かない。

 久々の開放感に気合120%の彼は、まるで空を飛ぶように草原を駆け抜ける。

 カナタによりある程度の魔改造をされている馬車ではあったが、想定以上の負荷により所々でギシギシと軋む音が発せられていた。


「ミウちゃん……」


「いざとなったら小突いてでも止めさせるよ。途中から歩き……なんてならないようにね」


 そう言うと、ミウはチラリと前方を見やる。


「フハハハハーッ! どうだ! 我の速度は!! 麒麟? 韋駄天? 我の前には何人たりとも存在せんわーっ!」


 すっかりハイになっているユニ助に対し、軽くため息を吐くミウ。

 だが、今回は急ぐ必要性がある為、当分は放置することを決めたのだった。




 広い草原にはちらほらと魔物たちの姿も見受けられたが、それらはこちらを一瞥するのみで戦闘には至っていない。

 やたらとハイテンションのユニ助ではあるが、しっかりと魔物の気配を察知して距離を取っている様子。

 馬車を襲撃するためにはユニ助以上のスピードを出して追いつかなくてはならず、魔物たちも恐らくそれが無理だとわかっているのだろう。


「問題は馬車が持つかどうかだね」


「ミウちゃん、あれがその森っぽいの」


 アリアが指差した方角に広がる広葉樹の集まり。

 聞いた話では目的の森への到着にはもう少し時間がかかるとのことだったのだが、どうやらユニ助の頑張りにより大幅に時間が短縮できたようだ。

 ミウは御者台へと身を乗り出し、ユニ助に声をかける。


「ユニ助、ストップ! 目的地に着いたよ!」


「フハハハハハーッ!!」


 ミウの制止も耳に入らないのか、森の横をそのまま通り過ぎようとするユニ助。

 ミウは仕方が無いと言うような仕草で馬車内の2人に手で合図を送る。

 合図を受けた2人がしっかりと何かに捕まったのを確認したミウは、自らの掌をおもむろに上に向けた。

 そして、バチバチッという音を発生させた小さな掌が、そっとユニ助のお尻に触れる。


「おおおおおおっ!」


 悲鳴のような叫びを上げながら、ユニ助が自らと馬車を急停車させる。

 そんな状況でもバランスを崩さないのは流石ユニ助といった所か。

 そして、ユニ助は首だけを捻るようにして、後方にいる愉快犯を睨みつけた。


「何をする! くそチビ!!」


「ユニ助が人の話を聞かないのが悪いんだよ! ほら、あれが目的地なの!」


 馬車が今にも通り過ぎそうになっていた森を指さすミウ。

 

「……むむっ、それは我としたことが――。だが、もう少し他に気づかせ方というものがあるだろうに……」


 自分にも責があることに気が付いたのか、ユニ助の口調が少々トーンダウンする。

 だが、ブツブツと文句を言いつつも、ゆっくりと森の傍まで馬車を移動させる所は律儀なユニ助である。


「ありがとうなの」


「ふん、お安い御用だ」


 馬車を降りたアリアがユニ助の馬体?を優しく撫でた。

 まんざら嫌では無いのか、仏頂面のユニ助の尻尾が大きく左右に振れている。


「さて、我は野蛮な争いごとは好まんのでな、戦闘には参加できん。そこはお前たちで頑張るのだぞ」


「まかせるです〜!」


 そして3人に見送られ、ユニ助は馬車と共にイデアへと帰還した。

 残されたミウたちは、ロゼを救うべく森への一歩を踏み出すのであった。

 



最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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