第185話 トラブルは突然に
お待たせいたしましたm(__)m
「はぐっ! はぐっ!」
宿の一階にある食堂。
そこで一心不乱にパンを口に頬張るロゼちゃん。
そんなに慌てると……。
「ん!? んぐっ!」
「ダメだよ、ロゼ。もっと落ち着いて食べないと」
ミウがコップの水をロゼちゃんに渡す。
彼女はそれを受け取ると、一気に飲み干した。
「あ〜、死ぬかと思った」
「ロゼは落ち着きが無いです〜」
ポンポがさも自分が大人であるかのように振る舞う。
この前までアリアに散々怒られていたのは指摘しないでおこう。
「まだ沢山あるから、慌てなくて良いんだよ」
「うん、ありがとう、お兄ちゃん!」
お兄ちゃんか、良い響きだ。
血の繋がっていなかった弟妹たちを思い出す。
「……はっ!? もしやカナタにその属性が!? ……いや、私も頑張ればまだ……」
うん、ツッコまずにスルーしておこう。
「はぁ〜、食べた。お腹いっぱい」
その小さな身体の何処に入るのかという位の量を食べたロゼちゃん。
まさに食べ盛りの成長期といったところだ。
「ロゼ、ゲームするです〜」
「うん!」
ポンポらに連れられ、宿の部屋へと向かうロゼちゃん。
これから皆でカードゲームでも楽しむつもりなのだろう。
そして、食堂に残ったのは僕とミサキの2人。
ミサキは食後の紅茶を上品な仕草で口に運んでいる。
ちらちらと周りからの視線を感じるが、恐らくは注目されているのはミサキのみ。
いかにも魔法使い的な服装は兎も角、顔だちの整った美少女ではあるので帽子を取ったその姿が注目を浴びるのは仕方が無い。
「……どうしたの?」
「いや、何でも無い」
僕は真っ直ぐにこちらを見つめるミサキから視線を逸らしつつ、話題を変えることにする。
「そういえば、長らく留守にしているけど街の方は大丈夫かな? きな臭い動きって言うのも気になるし」
「……問題ない。……キマウがいる」
まあ、元々僕はお飾りみたいなもの。
荒事になれば多少は役に立つかな、って程度だ。
警備兵を纏めてくれているゴランといい、能力の高い人たちがいてくれて本当に大助かりだ。
そして、僕は目の前の紅茶を一気に飲み干した。
「さて、ミウたちは部屋で遊んでいるみたいだし、偶には2人で出かけるか?」
「……ええ」
ミサキが嬉しそうにほほ笑むと同時に、周りからも「おおっ!」と言った感嘆が漏れる。
うん、こんな事だけで凄く喜んでくれるなら、もっと機会を作っても良かったな。
「で、何処に行く?」
「……どこでも」
行き先についてはミサキに特に意見は無いようなので、僕らは適当に街の中をぶらつくことにした。
大通りの裏手にある小さな通りにはいくつもの店が立ち並ぶ。
先程皆で出かけたのが観光客向けのデパート街だとすれば、こちらは商店街と言ったところか。
通りを通行する人も殆どが見るからにこの街の住人である。
買った肉まんもどきを口に頬張りつつ、僕らはゆっくりと通りを歩く。
「ふむ、どうなんだろう。観光としてはこっちの方が面白いんだけど」
「……そうね」
小さな店の一つひとつには何と言うか個性がある。
大きい店に集約して街として儲けを考えるのも良いが、そういったものも大事にしないと……。
いかん、何だか領主目線になってきているな。
「毎度あり!」
気風の良い店員たちが勧める独自の食材を買い込みつつ、僕らは商店街の活気を楽しむ。
しかし、進むにつれてその活気や歩く人の数も次第に疎らになり、そろそろこれ以上進めばスラム街に近付くかといった場所で、ふとミサキが何かを見つけたように立ち止まった。
「……鍛冶屋がある」
ミサキが1つの店を指差す。
いかにもな古さの木製の建物が人通りの少ない外れにひっそりと佇んでいた。
「うん、入ってみるか」
もしかしたら掘り出し物も……。
そんな淡い期待を抱いて僕らが店に入ろうとしたその時、店の中から何やら怒鳴り声が漏れてきた。
「くそっ! 何て頑固なおっさんだ!」
「てめぇ! ミルウォーク商会に逆らって只で済むと思うなよ!」
「精々ボヤ騒ぎには気をつけるんだな!」
程無くして、余り宜しくない人相の男たちが追い立てられるように店の入り口から出てくる。
彼らは僕らを気にする事も無く、肩を怒らせながらその横を通り過ぎていく。
僕は横目でチラリと彼らに視線をやりつつ、入れ替わるように店の中へと入る。
「何だ! また来やがったのか! これでも喰らえ!」
気がつくと目の前には空のバケツを持った中年男。
そして次の瞬間、僕は大量の水を全身に浴びて、あっという間にずぶ濡れ状態になるのであった。
「何と言うか……、すまんな」
僕に対し平謝りしている中年男。
名はカルロと言い、この鍛冶屋兼武器屋の主人である。
僕は現在、彼に裏手の工房へと連れて行かれ、そこで起こした火によって服と身体を乾かしている最中である。
そして、何故かその隣にちょこんと座るミサキなのだが、水に濡れた様子は一切ない。
他の事に気が逸れていた僕と違い、すんでの所で回避したようだ。
「ただ濡れただけなんで、それほど謝らなくて良いですよ」
「本当にスマン。何せまた連中が来たのかと思ったものだから……」
「連中?」
「いや、こちらの話だ」
恐らくは先ほど出て行った男たちを指しているのであろうが、こちらも無用に深く関わろうとは思わないのでそれ以上は追及しなかった。
暫くして服も乾き、僕とミサキは改めて表にある店へと案内された。
お詫びに多少割り引いてくれるといった店主の言葉に多少期待しつつ、僕は店内、そして店に置いてある武器・防具を見て回る。
店内は狭く、洒落っ気一つない無骨な作りだが、所狭しと置いてある商品は中々のもの。
午前中に見に行った量販店とはえらい違いだ。
「ほら、これなんかどうだ。実はこれには特殊効果がついていてな……」
「カルロさん、大変だ!」
カルロの言葉を遮るように店の入り口から血相を変えて飛び込んできた男。
その若い男に対し、カルロは驚いた様子で声をかける。
「何だ、どうした? 血相変えて」
余程急いで来たのか、男は膝を抱えて前かがみになり息を整えている。
そして、絞り出すように二の句を継げる。
「ろ、ロゼちゃんが連中に――」
聞いたことのある名前を耳にした僕は、カルロと供にその男の報告に耳を傾けるのであった。
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