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第183話 和やかな会食

お待たせいたしましたm(__)m

「この国特産の紅茶とお菓子ですわ。どうぞお上がりになって」


 食事の時間には早いという事で、顔合わせを含めてのティータイム。

 リアルメイドさんがテーブルについた僕たちの前に小洒落た食器を並べる。

 その上に置かれたのは果実の粒がふんだんに入ったスポンジケーキ。

 そして、ティーカップに注がれた紅茶からも、何か果実系の匂いがほのかに香る。


 テーブルを挟んで目の前にいるのは、何時ぞや街で見た『聖女』様。

 年の頃は20代後半といったところだろうか。

 人当たりの良さそうな柔らかな雰囲気と笑顔、しかしその中にも何処か芯の通った強さを感じさせる女性だ。


 そして、その斜め後ろに直立不動で立っているのは騎士の鎧を身に纏った中年の男。

 その眼光は鋭く、僕らの一挙手一投足を見逃すまいと目を光らせている。

 

「改めまして、この度は招待を受けて頂き、ありがとうございます。私はフリード教会で司祭を務めていますミレニアーナです。ところで、フリード教会はご存知でしょうか?」


「いえ。申し訳ありませんが……」


 首を横に振った僕に対して気を悪くすること無く、彼女は説明を始める。


「フリード教会とは、この世界をお作りになった女神様を信仰する集まりの中にあって、古くは500年も前から存在している歴史ある団体ですわ。別に長ければ良いという物でもないですけれど、多少の融通は利く位には規模が大きいかと。こうして貴族の屋敷の一室を借りられるくらいには……ね」


 彼女はにっこりと笑って、手元の紅茶に口をつける。

 そしてどうぞ召し上がれと僕らを促す。

 彼女の後ろに立つ騎士からは何となく、「てめぇ、聖女様の勧める物が食えねえのか、ああん!?」といった風な視線を感じるが、きっと気のせいであろう。


 僕はスポンジケーキにフォークを入れ、その一欠けらを口に運ぶ。

 しっとりとした舌触りに合わせて新鮮な果実のうまみが広がる。

 なるほど、特産と言われるだけのことはある。

 後でスラ坊にもお土産として買っておこう。


「お気に召して頂けて何よりです」


 聖女様がエスパーのように僕の思考を読み取った――かに思えたが、そうでは無かったようだ。


「美味しいです〜!」


 いつの間にかペロリとケーキを平らげていたポンポ。

 ギロリと睨む騎士の視線を物ともせず、まだ足りないとばかりに空になった皿を見つめる。

 こうした時、子供はやはり大物である。


「お替りならありますわよ。そちらのお嬢様も――」


 ミウがチラリと僕を見たので、コクリと頷き返す。

 そして、ミウやアリアがケーキを食べ進める中、僕は聖女様に切り出した。


「改めまして、本日はご招待ありがとうございます。それで、聖女様とも呼ばれているお方が、たかが他国の一領主にどのようなご用件ですか?」


「あら、ご謙遜を。国の一部では勇者と呼ばれ、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで発展を続ける街の領主様、一度直接会ってみたいというのは当然ではないかしら? それと、私の事はミレニアーナで結構ですよ」


「ならば、私の事もカナタで構いません。それで……、会ってみてがっかりされましたか?」


「いいえ、思っていた以上でしたわ。それに、貴方だけでなく他の皆さんにも、大いなる祝福が降りているご様子。何があったかも興味がありますが、許されるならば今すぐにでも私たちの頂点としてフリード教会に勧誘したいくらいですわ」


「ご冗談を」


「あながち冗談では無いのですけれどね」


 まさかの勧誘宣言だったが、初めから無理だと思っているのか彼女からはそれ程の本気度は窺えない。

 こういったやり取りはあまり得意では無いのだが……。


「今回はあくまで顔見せですよ。これで私とカナタさんはお知り合いになりました。それがお互い後々に役に立つときがあるかもしれませんからね」


 そういって彼女はにっこりと笑うのであった。




 

 それから暫くして夕食の時間となり、ミレニアーナさん(様をつけたら露骨に嫌な顔をされた)と食事を共にする。

 警護の騎士は相変わらず直立不動で彼女の背後に立っている。


「美味しいです〜!」


 先程ケーキをお替りしていたポンポだが、そんな事は既に過去の出来事のようにもりもりと食べている。

 確かに美味しい食事だが、やはりこちらはスラ坊のに比べれば一段落ちる感は否めない。

 

「お口に合いませんでしたか?」


「いえ、大変美味しいです」


 そもそも比較対象が間違っている、この食事も充分に美味しい物であることは間違いない。

 舌が肥えてしまったということは時に不幸かもしれない。




 そして和やかに会食が終わり。僕たちは帰路につく。

 帰路、とはいっても僕たちは本日は宿を取っていないので、このまま街を出立するつもりだ。

 別荘への帰還など、街の外のほうが色々と都合のいい事もある。


「それで、ミサキ。どう思う?」


「……わからない。……でも注意は必要」


 僕とミサキが話している内容、それはミレニアーナさんたちフリード教会の事では無い。

 彼女との別れ際に耳元で囁かれた情報、それについてである。


「ガルド王国の内部に何やら不穏な動きがあります。充分にご注意を」


 聖女と呼ばれるミレニアーナさん、そんな彼女が持っている情報網から考えると嘘とは切って捨てられない。

 会って間もないが彼女の性格からいって、ガルド王国からの勧誘目的の揺さぶりとも考えにくい。


「……とにかく、今は目的がある」


 ミサキの言う通り、今はクリュールとの約束が先だ。

 ただ、キマウさんには注意喚起だけはしておこう。

 何か起こったとしても、きっと適切な対応をしてくれるはずだ。


 そして、僕たちはフラワーパークを後にする。

 目指すドムト山への道のりはまだ長い。


 

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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