第182話 ご招待
お待たせいたしましたm(__)m
再びフラワーパークへと辿り着いた僕たちはそのままギルドへと直行、依頼達成の報告を行う。
その頃にはバーラ、テアロンは目を覚ましており、意識もはっきりとしていた。
魔物との戦闘が即日出来る程には回復していないが、それも時間の問題であろう。
「おおっ! これでまた酒が飲める!」
ギルドからの報酬を得たゴームスがその強面を破顔させて満面の笑みを浮かべる。
まだ顔色の優れない2人の心配など、この時ばかりは何処かに吹き飛んでしまっているようだ。
「あのねぇ、ゴームス。嬉しいのはわかるけど、ちょっとは自重してくれないかしら?」
バーラが心底呆れ顔で言い放つ。
「たかが2、3日大人しくしていれば治るようなものに心配する必要など無かろう? それとも何か? 甲斐甲斐しく世話でも焼いて欲しいのか?」
「誰が!! 万年酔っ払い親父なんかに!」
2人のやり取りをテアロン、そして僕たちは苦笑いで見つめる。
ゴームスの言い分を肯定する訳ではないが、あれだけ口論出来ればもう問題ないだろう。
「それじゃあ、僕らはこれで」
「おう! 助かったぞ、カナタ!」
「ごめんね、アタシたちの調子が良ければこの後に打ち上げでもするんだけど……」
息の合う2人は、僕の挨拶に口論を一瞬で止めて返事を返してくれた。
不満を溜めずいざという時には連携、この辺が長くパーテイーをやる秘訣なのかと少し感心する。
いや、別に今のパーティーに不満は無いけどね。
「無理はしなくて良いよ。また稼がなくちゃならないだろうから」
ちらりとゴームスを見てから僕は答える。
「嫌なこと言うわね。じゃあ、機会があったらまたお願いね」
こうして、僕らは3人と別れ、ギルドを後にする、筈だったのだが――。
「少し宜しいでしょうか」
自然な動作で僕らの前に現れた一人の男。
パリッとしたスーツに身を包み、白髪交じりの頭を恭しく下げる初老の男性。
タイミングからしてこちらの話が終わるのを待っていたようだ。
「私は、ミレニアーナ様の使いとして参りましたバラクと申します。この度はお忍びとはいえ他国の領主であらせられるカナタ様にご挨拶をと申し付かっております。つきましてはディナーへとご招待いたしたく迎えの馬車をご用意しておりますので、何卒招待をお受けくださいます様よろしくお願いいたします」
そう言って深々と頭を下げる老紳士。
「おい!? 領主って、お前そんなに偉かったのかよ!」
ゴームスが驚きの表情でまじまじと僕を見つめる。
いや、顔を見たからって何もわからないと思うぞ。
しかし、少々面倒だ。
どうもこの老紳士の主人はこちらの素性を調べ上げている様子。
何やら厄介事の匂いしかしない。
「ミレニアーナ様って……、アンタ凄い所から招待を受けるねぇ」
バーラはミレニアーナ様とやらを知っているようだ。
すると結構な権力者か、出来れば遠慮したい。
「……とりあえず、受けるのが無難。後で絡まれても厄介」
ミサキが僕の耳元で囁く。
ふむ。
確かに、ミサキの言うことにも一理ある。
仕方ない……かな。
「わかりました。謹んでご招待をお受けします」
「それはそれは、ありがとうございます。それではまいりましょう」
僕らは赤の閃光の面々に別れを告げ、バラクさんに促されてギルドを出る。
そこに待っていたのは僕の予想に反して、街の景観を損ねないような何処にでもあるような馬車。
よく見ると、それぞれのパーツはしっかりと作られているが、おおよそ派手好きが多い貴族の物とは思えない。
僕らを乗せた馬車はゆっくりと街の中を進む。
程なくして見えてきたのは如何にも貴族が住んでいそうな大きな屋敷。
羽を広げてこちらを威嚇する2体のワイバーンの像が大きな門の番人とでも言った風に置かれている。
門を守る私兵らしき男にバラクさんが何やら話しかける。
すると暫くして門が開かれ、僕らは馬車ごとその中に入る。
馬車は高そうな真っ白な石が敷き詰められた石畳の上を歩いて行く。
石畳に沿って両脇に配置されている花壇の向こう側は芝生になっており、そこでは野性味あふれる犬が放し飼いにされていた。
更に進むと石畳の中央に噴水があり、更にその中央には英雄のように剣を高く掲げる男の像。
だが、残念なことにその男の目つきは何処となく悪い。
馬車を降りて屋敷の中に入り、赤絨毯の敷かれた廊下をメイドに案内されながら進む。
そこには金ぴかの壺やら絵画やらの芸術品が自らの財力を誇示するかのように所狭しと飾られている。
「うわぁ、趣味悪」
「しっ!」
ミウの正直すぎる呟きを嗜める僕だが、その意見には大いに同意する。
「ご安心ください。ここはミレニアーナ様の屋敷ではございません。お忍びで会談するにあたり、ベソッド様の屋敷をお借りしただけですので……」
僕たちの心情を察してか、バラクさんが自らの主人をフォローする。
なるほど、この屋敷の主人はベソッドというのか。
関わりたくないので覚えておこう。
そして、バラクさんはある扉の前で立ち止まる。
そこには完全武装の騎士がそれを守るように立っており、じろりとこちらに睨みを利かせる。
「客人をお連れした」
「これはバラク殿。どうぞお通り下さい」
かくして扉は開かれる。
そして僕たちを出迎えたのは――、
何時ぞや見た、その場の空気を支配する程の存在感溢れる女性であった。
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