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第178話 遭遇

大変お待たせいたしましたm(__)m

「ねぇ?」



「何だよ」



「僕たちってさぁ、何のために生まれてきたと思う?」



「知らないよ、そんなの」



「じゃあさ。僕たちのソンザイイギって何だろう?」



「何だい、ソンザイイギって?」



「生きてる意味ってことだよ」



「ふーん。で?」



「この前のアレ、いじったよね」



「ああ、アレか。流石に住処(ここで暴れられたら困るからね」



「そう。それで、そのいじった方向性なんだけどさ。やっぱりイタズラの衝動は止められないよね」



「いつものことだろ?」



「うん。でも、それが不思議だと思ってね」



「面白ければいいよ」



「それもそうか」



「そうだよ」



「クスクスクス……」



「クスクスクス……」




  

 ※





「カナタ。向こうの方角に何か大きいのがいるよ」


「了解。ありがとう、ミウ」


「どういたしまして♪」


 パーティー単位で2手に分かれた僕たちは、慎重な足取りで森を探索していた。

 事前の打ち合わせ通り、ハニーパインと遭遇したら信号弾でもう1組に知らせるということになっている。

 ハニーパインの移動速度はそれほど速くなく、見つかっても十分に距離をとれるので、もう1組を待つ余裕は十分にあるとのこと。

 不測の事態に備えて、持てる戦力を最大限に生かし万全の態勢で戦闘に臨もうという彼女らの姿勢は、結構行き当たりばったりな事が多い僕らパーティーは見習わなくてはならないと思う。



 


「ハズレか……」


 ミウが発見した気配に近付いた僕たちは、大木の影からそれを窺う。

 僕の視線の先に居たのはハニーパインでは無く、体長3メートル程の見た事が無い魔物。

 それがワイルドウルフ1匹に馬乗りになっていた。

 必死にもがくワイルドウルフだが、どうやら逃げられそうにない。


「ヌーバなの」


 アリアが目の前の光景を見て顔をしかめた。

 うん、その気持ちは良くわかる。

 ワイルドウルフの上にべったりと巨体を乗せ、それを溶かすようにして捕食する巨大ナメクジ。

 特にそれ系が苦手では無い僕も、流石にこれは見ていて気持ち悪い。

 やはり何と言っても巨大だというのがそれの大きな要因だろう。


「うわぁ……。カナタ、早く退治しようよ!」


 ミウの言葉からも、もう見ていられないという気持ちがありありと伝わってくる。


「水に耐性があるの。火に弱いの」

 

 アリアからの助言。

 水に強いのは見た目通りだね。


「……任せて」


 そして、ミサキが一歩前に出る。


「ミサキ」


 ミサキに呼びかけると、僕が言いたいことがわかったのか、それに黙って頷くミサキ。

 うん、どうやら大丈夫そうだ。



 ミサキがスタッフを前面にかざす。

 すると、ピンク色のそれを中心に魔力が膨れ上がり、次の瞬間、ヌーバを取り囲むように炎が発生する。

 そして、ヌーバを中心として発現した赤いサークルは、ゆっくりとその範囲を狭めていく。

 ヌーバが身体をくねらせて回避を試みるも、四方を炎で囲まれたその場所に逃げ場はない。


「グキョッ!」


 ヌーバは何処から出したのかわからない異音を発し、白い塊を勢いよく吐き出す。

 それは炎の壁を突き抜け、敵対する僕らに迫る。


「させないよ!」


 だが、何らかの反撃を警戒していたミウがそれを危なげなく防ぐ。

 発現した風の壁によって落下したそれは、地面に生い茂る植物を白煙を上げながら溶かしていく。


「溶解液か。おっかないな」


 中々の威力。

 一対一で知らずにこれを喰らったらダメージが大きいことは想像に難しくない。


「遠距離で倒すのがお勧めなの」

 

 なるほど。

 でもまあ、あれと剣を交えるのは別な意味で勇気が必要だから、知らなくても必然的にそちらを選択する人が多いと思うけどね。


「ポンポも近寄りたくないです〜!」


 遠距離攻撃が苦手なポンポも、今回ばかりは接近戦で戦いたいとは思っていないようだ。




「……終了」


 数分後、炎の消えた場所には黒い消し炭。

 原型を一切残していないそれを見て、皆が安堵の表情を浮かべている。

 そして僕はというと、炎が森に焼け移って無い事に安堵していた。


「……上手くやった」


「うん、ありがとう」


 どうだと言わんばかりに胸を張るミサキに礼を言う。

 目を軽く瞑って何かをアピールしていたのは軽くスルーだ。


「よし、先を急ごう!」


 ヌーバの素材は手に入らなかったが。今回はこれがお目当てでは無いので良しとしよう。

 僕たちは再び森の奥へと探索を開始した。



 ※



「ねえ、何かおかしくない?」


 カナタたちのパーティーと別れて数時間。

 バーラは自ら感じている違和感に対し、供に歩く2人に意見を求める。


「あん? 何がだ?」


 わからないと言った風に首を傾げるゴームス。


「魔物に出会わな過ぎるのよね。この森ってこんな感じじゃ無かったと思って」


 何回か別の依頼でこの森を訪れた時の経験から感じた違和感。

 それが多少であったとしても、一瞬の油断が死に繋がる冒険者としては無視できない、とバーラは考えていた。


「居ないのは良いことだろうが」


 だが、基本楽天家であるゴームスにはその言葉は響かなかった。

 しかしそれとは対照的に、テアロンが真剣な表情でバーラの意見に同意する。


「バーラもそう感じたかい。僕も何となくおかしいと思っていたんだ」


 2人の只ならぬ雰囲気に、ゴームスの目の奥にも真剣さが宿る。


「まあ、お前ら2人がそう言うならそうかもしれんな。それで、どうするんだ?」


 ゴームスが疑問を投げかける。


「兎に角、今のところは警戒を怠らないようにとしか言えないね。こういった感覚って結構大事だから、ゴームスもその辺に機敏になって欲しいんだけどね」


 重苦しくなった雰囲気を柔らかくすべく、テアロンが多少おどけて見せる。


「警戒なら言われなくともやっている。それに、機敏に関しては俺は大雑把だから無理だな。そういったのはお前らに任せるぜ」


「はいはい」


 そんなやり取りをしつつ、足を進める3人。

 暫くして、テアロンが何かに気がついたように辺りを見回す。


「どうした、テアロン?」


「いや、ひょっとして……。うん、間違いない。バーラ、ゴームス、どうやら僕たちは囲まれたみたいだ」


「うそ!? いつの間に!」


 バーラが驚きの表情を浮かべる。


「ふん、蹴散らせば良かろう」


「まあ、それしか無いんだろうけど……。えっ!? 嘘だろう!?」


 テアロンが信じられないと言った風にかぶりを振る。

 その原因は視線の先のありえない光景。


「ポイズンフロッグにリザードナイト、それにシルバーボアまで……。別種の魔物、それも天敵同士が群れるなんてことが!」


 更にテアロンは気がついた。

 その最後方にお目当てのハニーパインがいることに。


「バーラ、信号弾を上げて! これは不味いことになりそうだ!」


「今準備しているわ!」


 バーラの心の中に一瞬、カナタたちを巻き込んでしまうとの躊躇の考えが過った。

 しかし、道中での彼らの強さを思い出し、バーラは信号弾に火をつける。

 信号弾は森の木々を高く超えて、笛の音と共に空高く舞い上がった。


「ゴームス、出し惜しみは無しよ!」


「わかっているさ! 死んだら美味い酒は飲めねえからな!」


 ハニーパインが自らの枝を大きく揺らしたのを合図に、魔物たちが雄たけびを上げる。

 それはまさしく、これから始まる戦闘に対しての歓喜であった。




最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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