第177話 混成パーティー出動
風邪をこじらせて体調を崩していました。
季節の変わり目、皆様も風邪にはお気を付け下さい。
前回の話を閑話へと変更しました。
「ふぅ……、ここから歩きか」
「そういうことね。途中まで馬車があっただけでも良しとしなきゃいけないわよ」
乗り合いの定期馬車に途中まで運んでもらった僕たち混合チーム。
ここからは徒歩にて目的地を目指す。
今回は合同依頼ということでユニ助はお留守番。
見張り無しで馬車を森の外に置いておけないという一般常識に縛られた、というのが理由だ。
面倒だが、これはこれで仕方が無い。
「……あとどれくらい?」
「ここから歩いて2時間ってところだよ。もちろん、探索はそこからが本番だけどね」
ミサキの問いにバーラが答えた。
僕たちは現在、一面に広がる湿地帯の入り口に立っている。
これを抜ければ目的地である森が見えてくるとのことだ。
ここであらかじめ用意していた丈の長い靴に履き替える。
通り道となる足場自体はぬかるんではいないのだが、この先何が起きるかわからないからね。
「さあ、行くよ! 周りへの警戒も忘れちゃ駄目だよ!」
バーラが皆に号令をかけた。
周囲の草は腰くらいの丈があり、見通しが悪いのが難点。
視覚だけを頼っては魔物に奇襲される可能性があるので注意が必要だ。
僕たちは湿地の間を走る凸凹道を慎重に進む。
「かーっ! ジメジメしてやがる。こんな時にキンキンに冷えた酒でもあればな」
「馬鹿言ってないで真面目に警戒しな。そもそも依頼が成功しなきゃ酒も抜きだからね!」
「わかってるわい!」
バーラとゴームスの掛け合いを聞きながら、僕は周囲を探知する。
すると、少し離れた場所に生物の反応が2つ。
魔物か動物かは定かではないが、赤の閃光のメンバーはまだこれに気付いていないようだ。
しかし、それらは暫くすると僕たちとは逆の方向に離れていく。
「行っちゃったね、カナタ」
「ああ」
僕とミウは一言だけ交し、何事も無かったように足を進める。
程無くしてまた反応が1つ。
しかも今度はゆっくりとこちらに近付いているようだ。
そして、次第にその接近速度が速くなる。
「皆、何か来るぞ!」
僕の掛け声に素早く臨戦態勢を整える面々。
水が大きく跳ねる音がしたのはそれとほぼ同時であった。
泥の中から飛び出して来たそれは大口を開けて僕に襲い掛かる。
「……邪魔」
しかし、ワニの様な長い口の中に入ったのは餌と認識された僕では無く、真っ赤に染まった火球。
それをそのまま丸呑みする形となったワニ型の魔物は、閉じた口から黒い煙のようなものを吐いてのた打ち回る。
僕は魔物の次のアクションに警戒すべく剣を構える、が、どうやらそれは無駄に終わりそうだ。
「大丈夫かい? 怪我は無い?」
「ああ、こちらは問題ないよ」
駆け寄ってきたバーラに軽く手を挙げて応える。
プスプスと肉の焼けた良い匂いが辺りに漂う。
しかし、これを食べるのは些か勇気が必要だ。
「兎に角、他の魔物が近寄ってくる前にこの場を離れましょう!」
バーラの危惧している通り、匂いに釣られて何かの気配が数匹、こちらに向かってきているようだ。
無駄な戦いを避けるべく、僕たちは足早にその場を後にすることにした。
「しかし、凄いよ! 魔物の種類を瞬時に判断して口の中に魔法をぶち込む! ガルディアの外皮は熱に耐性があるから、あの攻撃で無かったら一撃で仕留められず懐に飛び込まれていた筈だよ!」
「……それ程でも」
「あれがガルディアだってのは何でわかったんだい? それとも目で見て瞬時に判断したとか? いや、それだと発動に間に合わないか」
「……何となく」
先程のミサキの攻撃を見たテアロンが興奮気味に捲し立てている。
それに対するミサキのそっけなさのギャップが凄まじい。
「おい、テアロン。何をそんなに興奮してやがるんだ」
「ゴームス。君は魔法職じゃないからあの攻撃の巧みさに気がつかないんだよ。あの流れるような攻撃はまさしく熟練の技。しかもその若さで……。あっ!ひょっとして見た目通りの年齢じゃない――」
テアロンのセリフはミサキの一睨みにより中断させられた。
まあ、確かにそれは失礼だね。
「……違うから」
ふと、僕と目があったミサキが一言呟く。
僕がわかっているという風に軽く頷いた。
「カナタ、今度は沢山来るよ!」
その時、ミウの探知に何かが引っ掛かったらしい。
「本当かい! それならアタシもここいらで実力を見せとか無きゃね」
バーラの目が肉食獣のようなそれに変わる。
その気合いが伝播したのか、横にいるポンポの鼻息も荒い。
続々と群れで現れたのはアミーバ。
濁った水面を滑るように近づく姿はまさしく巨大アメンボ。
確かギルドの資料によれば、ストローのような長い口で吸血してくるEランクの魔物だった筈。
「アタシとゴームスが前に出る。テアロンは援護を頼むよ!」
「腕が鳴るぜ!」
「任せといてよ」
赤の閃光の面々は慣れた動作でフォーメーションを組み、アミーバを迎え撃つ。
バーラが魔物の細い足を切断すれば、ゴームスは力の乗った一撃で相手の胴体を一刀両断、テアロンは2人に身体強化の魔法を掛けつつ単発の魔法で敵を牽制、先手を取らせないようにしている。
なるほど、バランスの取れた良いパーティーだ。
そして、僕たちはと言うと――、
「さあ、かかってくるです〜!」
ポンポがすかさず前面に出て群れに対し剣を振るう。
多対一の無謀と呼べるその行動だが、アイテムのお蔭でダメージは皆無、まさしく無双状態だ。
更には、その撃ち漏らした敵をアリアの矢が丁寧に仕留める。
その矢は正確無比、百発百中だ。
そして、ミウがポンポに襲い掛かる敵の数を減らすべく広範囲魔法を展開、敵の防御力がそれほどでは無い為、面白いように魔物が一掃されていく。
何と言うか、僕の出番が無い。
「……暇」
僕と同じ状態に陥っているミサキが、まるでため息のような単発の火球を放ちつつ呟く。
そして程無くして、戦いは何事も無く終結した。
結果は言うまでも無く、魔物の全滅である。
「何か、アンタたちを見ているとアタシたちが同じランクなのが申し訳なく思えるわね」
戦いが終わった後のバーラの第一声である。
「いや、相性もあるでしょう。相手は集団だからね」
「そうかしら。それだけじゃないと思うけど……。でも、確かに広範囲の魔法は魅力よね。アタシたちも純粋な魔法職を1人入れようかしら」
それからの道中では、話はパーティーの戦術にも発展。
その話っぷりから、彼女は意外と研究熱心だということがわかった。
僕も見習わなければ……。
そして、その後幾重の戦いを経て、とうとう僕らは目的の森の入口に辿り着いたのであった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!




