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第174話 殲滅!

 マイケルくんと別れて約一週間、魔物との多少の戦闘はあれど、僕たちは村でのトラブルの遅れを取り戻しつつ順調に目的地に近付いていた。

 そして今、この道中の最初の難関であるアラト山、僕たちはそのふもとまで辿り着いていた。

 アラト山とは東西に延びる北の国境、ロキアス山脈の一角を担う岩山。

 目的地であるドムト山に向かうにはどのルートでもロキアス山脈を越えなくてはならず、その中でもアラト山越えが一番安全らしいのだが、それでもそれを越えてくる人間はめったにいない。

 国境沿いだというのに国境警備兵などが常駐する関所がないのがその証拠といえよう。


「やはり馬車では無理だね。ユニ助、悪いけどここで戻ってくれる」


「ああ。構わんぞ。では我は戻るとしよう」


 僕はユニ助と馬車をイデアへと戻す。

 他の冒険者と違って、また馬車が必要な時には直ぐに来てもらえば良いので楽ちんだ。



 そして、アラト山の岩肌を僕らは登って行く。

 崖という訳では無いので、徒歩であれば登るのにそれほど苦労も無い。

 場所が場所ならばハイキングに出かける老人でも登れる程度のなだらかさである。


「少し暑いな……」


 遠目から見たアラト山の頂上で白煙が上がっていたので、恐らくこの山は活火山。

 元々が暑い場所なのに加え、さらにその熱気が周りの気温を数度上げているのだろう。


「ん〜、ミウは平気だよ♪」


 隣でミウがいつの間にか棒アイスを取り出して舐めている。

 あれ、それは確か巾着の中に……?

 そんな僕の疑問を察してか、ミウが返答する。


「ふっふっふっ。カナタの持ち物はミウの物でもあるのだよ。ほら、お前の物は俺の物ってやつ?」


 どこのジャ○アンだよ、それ!

 まあ、中身は皆との共有物しか入ってないけどさ。

 でもいつの間に……。


「女神様がやってくれたんだよ。一人だけしか使えないのは不便だろうからって」


 そう言って、ミウは腰につけた巾着を指さす。

 なるほど、作った当人ならぬ当神が仕様変更したのか。

 よくよく考えれば、確かにその方が良いように思える。


「ってことは、ミサキも?」


「……当然。私とカナタは一心同体」


 いや、それは意味が違うと思うけどね。


「便利になったってことだね。ほら、カナタもどうぞ」


「ああ、頂くよ」


 昔懐かしい試験管で作ったような棒状のそれらの中から、僕は黄色を選んで口に運ぶ。

 うん、やはりみかん味か。


「ポンポも欲しいです〜!」


「はいはい。何なら緑にチャレンジしてみる?」


「チャレンジ、冒険者としては避けては通れない言葉です〜」


 ポンポはミウに言われるがままに緑色を選び一口。

 すると、晴れやかな笑顔が見る見るうちにしかめっ面へと変わる。


「これは……、何です〜?」


「オークのお爺ちゃんが作った青汁味だよ。栄養たっぷりなんだって」


「やっぱり食べ物にチャレンジはいらなかったです〜。デザートは美味しくあるべきです〜!」

 

 たまらずそれを吐き出したポンポにミウは苦笑しつつ、新しいキャンディーを渡す。

 今度は無難な赤色、ポンポも一口食べて満足そうだ。


「……カナタ、止まって」


 ミサキが2人を微笑ましく見守っていた僕を片手で制するように止める。

 その真剣な顔は少し先にある岩を見つめている。


「……すぐ終わる」


 ミサキがその岩に対して闇の弾丸を放つ。

 すると、突如として岩がもがき苦しみだした。

 いや、あれは魔物だ。


「……ミウ、探知はしっかり」


「ごめんね、ミサキ」


 岩に擬態していたのはロックフロッグ。

 灰色のごつごつした肌を持ち、長い舌の先に付いた毒針で獲物をしとめるのが特徴。

 気配を消すのが上手く、油断していたパーティーが良く被害に遭うらしい。


「まあ、とにかく気づけて良かった」


 ミサキの攻撃を受けて文字通りひっくり返っているロックフロッグをその場に放置して先に進む。

 横ではミウが何やらばつが悪そうな顔をしている。


「ミウ、大丈夫だよ。失敗は誰にでもあるから」


「ううん、そうじゃなくて、本当に気が抜けてたみたい。カナタ、ここから見えるあの岩肌、全部それだよ」


 ミウが指さした先。

 そこには切り立った崖のように高くそびえる岩壁があった。

 まさかと思った僕が多少近づいて目を凝らすと、何となくそれの輪郭があることがわかってしまった。

 何だか騙し絵みたいだ。


「ねえ、ミサキ」


「…………」


 ミウの問いかけにミサキが黙って頷く。

 それに合わせてアリアも大弓を構える。


「カナタ、任せて」


「……雑魚は殲滅」


「任せるの」


 3人の異様な張り切り、何やら危険な臭いがしないでもないが、僕は自信満々な3人に任せてポンポと供に傍観することにした。

 そして、それが始まった。


「いっくよ〜! 全てを飲み込む竜巻スワロートルネード


 ミウの詠唱により、目の前に巨大な渦が現われる。

 それは周りの空気を飲み込み、次第に巨大化していく。

 

「……全てを焼き尽くす火炎イグニートファイア


 巨大な竜巻と化したそれが、見る見るうちに赤く染まっていく。

 まるで風の精霊と炎の精霊が手を取り合って踊っているかのようだ。


 ゆっくりと岩肌に近付いていく巨大なそれに、ロックフロッグたちが気がついたようだ。

 だが、もう遅い。

 既に竜巻は目の前だ。


全てを焦がす雷撃ディバインサンダーなの」


 天高く放った雷撃の矢。

 それが弧を描き竜巻の中心目掛けて落下。

 そして、全てが重なり合う。














「………………やり過ぎだろ」


 僕の第一声である。

 壮絶な光景とでも言えばいいのか?

 ロックフロッグはおろか、それが張り付いていた岩肌さえも削り取られ、既に地形が変わっている。


「……大丈夫、人には使わない」


「当たり前だよ!」


「……詠唱に時間がかかる。……不向き」


「そっちかよ!」


 兎に角、気持ち悪い位にへばりついていたロックフロッグは既に岩壁ごと跡形もない。

 僕は3人に告げる。


「この攻撃、許可なく撃つこと禁止ね」


「え〜っ! 折角特訓したのに。合わせるの大変だったんだよ!」


「兎に角、禁止です!」


 僕は再度、強い口調で宣言する。


「は〜い」


「……仕方ない」


「なの」


「ポンポも混ぜて欲しかったです〜」


 僕の強い口調に、渋々といった感じで返答する3人。

 そして、それとは違う意味でがっかりしているポンポ。


「じゃあ、今度はポンポも混ぜて4人で――」


「……いい考え」


 こそこそと相談しだすミウとミサキ。

 ――聞こえてますよ。

 僕はその場で大きくため息をついた。


 


 






最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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