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第171話 何が……?

「お前ら、俺の研究をよくも持ち出そうとしてくれたな! 許さんぞ!」


 デングは怒りが治まらぬとばかりに拳を固く握り、震わせる。

 だが、その様子を見てもケンはあくまで冷静であった。


「何のための研究成果なんだか……」


 その言い草に目を見開くデング。


「貴様っ!」


 デングの顔がこれでもかと赤く染まる。


「復讐からは何も生まれない。残るのは虚しさだけ……」


 おどけた口調から一転、ケンは真剣な顔でデングに言ってのける。


「……その口調、今までが演技だったということか。お前のその口を黙らせる方法は一つしか無さそうだな」


「出来ると思う? 今の僕には強い味方がいる」


 それだけ言うと、ケンはサッと僕の陰に隠れる。

 おいおい、お約束ならここは2人で対決の場面じゃないのかい?


「そんな訳ないでしょ。僕には戦闘は不向きだ」


 僕のジト目から思考を呼んだのか、ケンは胸を反らせて自信満々に答える。


「第一、僕がいないと困るだろう?」


 まあ、それはそうなんだけどね。




「最後の話し合いは済んだのか?」


 デングがフンと鼻を鳴らす。


「ああ、待たせて悪かったね」


「いいさ。最後くらい、いくらでも待ってやろうとも」


 デングもその間に落ち着いたのか、自信に満ち溢れた表情で答える。

 森の主とも言える灰色熊の死体を見ても動じた様子は無いし、この余裕。

 一体何処から来ているのだろう。

 他にも何か隠し玉が……。


 僕と目が合ったデングがニヤリと笑う。

 その途端、何かの振動が僕の足元から伝わった。


「ちっ!」


 ミウ、アリア、続いて僕もケンとミミューを抱えてその場所から大きく跳躍した。

 大きく盛り上がる地面。

 次の瞬間、その場所全てを丸呑みするかのような巨大な口が地面から出現する。


「ほう、避けたか。だがいつまで続くかな? 幸い俺のペットは好き嫌いが無いから安心して食べられてくれたまえ」


 目の前に現れた赤褐色のワームがその言葉を肯定するかのように胴体をくねらせる。

 通常の色と違うのは、恐らく変異種なのだろう。

 だが、デングの自信の源である巨大なワームを見ても、僕に焦りは全く無い。

 以前の戦闘経験から見飽きていると言ってもいい『それ』。

 ハッキリ言ってかつて戦ったものより一回り小さいし、封印前のあれは強力過ぎて変異種どころではなかった。

 僕は落ち着いて剣を正眼に構え――。


「カナタ、休んでて。ミウがやるよ」


 そんな僕とワームの間にミウが割って入る。


「ミウちゃん、手伝うの」


 アリアもミウを援護するべく弓を構えて臨戦態勢だ。

 おおよそ危険は無いと判断した僕は2人の言葉に甘えることにした。

 心なしかまだ身体が怠いしね。


「わかった。2人とも、頼んだよ。万一危なくなったらフォローするから」


「平気だよ。ミウに任っかせなさい!」


 そして、ミウは素早く魔法を展開する。

 発現したのは色取り取りの無数の球体。

 ぼんやりと光を帯びたそれは、シャボン玉のようにふわふわと浮かびつつワームを取り囲んでいく。


「さて、弱点はどれかな〜」


 なるほど。

 あの球体は全て属性が違うようだ。

 器用に全属性を同時に制御するミウの成長に僕は驚きを隠せない。

 そして焦れたワームが動き出そうとしたその時、


「いっけー!」


 それぞれの球体がワームにに吸い寄せられるかのように直撃する。

 大きな体躯をくねらせて身悶えるワーム。

 その胴体に出来た傷をミウは見逃さない。


「アリア!」


「わかってるの!」


 アリアが属性を乗せた矢を放つ。

 更にそれはワームの弱点とも呼べる部分を寸分違わず穿ち、弾ける。


 余りの眩しさに僕は思わず目を瞑った。

 そして再び目を開けた時、地面には巨大なワームがピクリともせずに転がっていた。


「アリア!」


「ミウちゃん!」


 お互いを称え合い、ハイタッチする2人。


「ば、馬鹿な……!? いや、まだだ!」


 デングが驚きの表情を一瞬にして引締め直し、手を口に当てて高音の口笛を鳴らす。

 すると、空から無数の黒い鳥が五月蠅い位に喚きながら集まってきた。


「さあ、やってしまえ!」


 合図と同時に文字通り僕たちに飛びかかってくる怪鳥たち。

 だが、手数ならこちらも負けてはいない。


「またミウの出番だね」


 活躍の場が出来たとばかりに、ほぼ怪鳥の数だけの球体を嬉々として展開するミウ。

 どうやら先程の戦闘はミウにとって消化不良だったようだ。

 

 ――そして、結果は言うまでも無く完全勝利。

 実に呆気ない幕切れだった。



「くっ! くそっ!」


 もう既に隠し玉は無いのか、悔しそうにこちらを睨むデング。

 僕は彼に向かって話しかける。


「貴方の研究成果を奪ったのは悪いと思っている。でも、こちらも仲間の命がかかっているのでここは引けない。しかし、何故治療薬を世に出さない? 復讐? どういうことだ?」


「ふん、言ったところでわかるまい!」


「ええ、わからないわね」


 ケンが一歩前に進み出る。

 何故か口調がカマっぽくなっているのは気のせいだろうか?


「何っ!」


「貴方がしている事、それは誰が望んでいる事なのかしら?」


「……どういうことだ?」


「わからないの、アレン?」


「!!」


 デングは目を見開き驚愕の表情を浮かべる。

 見つめ合うケンとデング。

 僕には何が何だかわからない。


「……そうか、そうなのだな」


 長く続いた沈黙がデングの一言で終焉を迎える。

 彼は大きく息を吐き、ポケットから紙を取り出して何かを書き留める。

 そして、それを僕に向かって差し出す。


「薬の製法だ。もっていけ」


 どういう風の吹き回しだろう。

 しかし、デングは僕の疑念に答えることなく、再びケンに視線を戻す。


「ついて来てくれるのだろう」


「いえ、無理ね。私はもう……」


 ケンはゆっくりと目を瞑る。

 まるで何かに祈りを捧げるように……。


「お別れね。もう心配をかけないで頂戴」


「……ああ、わかった」


 その場ですとんと膝をつくケン。

 そして暫くして――。


「あれっ? ここは?」


 ケンが立ち上がりキョロキョロと辺りを見回す。

 まるで今までの状況が把握できていないかのように――。


「ふん、何でも無い。お前は気にするな。行くぞ」


 デングはもう僕たちの方を見ようともせず、彼に声をかけ、さっさと今来た道を戻りだす。


「ま、待ってくださ〜い!」


 そしてそれを追いかけるケンの叫びだけが辺りに木霊するのだった。



最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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