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第168話 デング様

お待たせいたしましたm(__)m

「えいっ! なの」


「甘いよっ!」


 迫りくる魔物たちをアリア、ミウが倒して行く。

 しかし、魔物たちの勢いは衰えず、次々と新手が現われる。

 僕も負けてはいられない。

 接近してきた目玉に口がついた様な魔物を切り伏せる。

 嫌な感触が手から伝わるが、そんな事は気にしてもいられない。


「キキキッ! キキューッ!」


 僕の肩の上で奇声を上げるミミュー。

 沿道でマラソンランナーを応援するかのようにパタパタと小さい手を振り上げている。

 どうにも視界の端にそれが入って気が散るのだが、守るために離れる訳にもいかないので半ばあきらめた。


「う〜っ! 限が無い!」


 ミウが大量の風の刃を飛ばす。

 襲ってきた魔物の防御力はそれほどでもなく、殆どの魔物が一撃だ。


「キキュー!」


 それを見たミミューが飛び跳ねて感動を表す。

 僕はミミューを落とさないように注意しながら残党を始末するのだった。




「あ〜、疲れた」


「お疲れ様なの」


 地面にぺたりと座って、ミウとアリアは水筒の水を口に含む。

 応援しすぎて声が枯れたのか、何故かミミューも一緒になって喉を潤している。


「しかし、何とも見た目の気持ち悪い魔物だったな。一瞬亡霊の類かと――」


「そういう事は言っちゃ駄目なの」


 間髪入れずに僕の言葉を遮ってきたアリア。

 どうやらアリアはその手の話が苦手のようだ。


「キキッ!」


「はいはい」


 ミウが空になっていた水筒の蓋に水を注ぎ、再びミミューに手渡す。

 何だかんだでコミュニケーションが取れているようだ。


「さて、ゆっくりしてもいられない。そろそろ出発しようか」


「うん、そうだね」


 僕の言葉にミウが立ち上がる。

 ミミューもそれを聞いて木の幹を枝に向かって駆け上がる。

 やはり僕の言葉を完全に理解している。


「キキキッ!」


 そして、ミミューの案内の元、再び僕たちは歩きはじめる。






「ここでいいの?」


「キキッ!」


 木々の間を迷路のように進むこと半時。

 僕らの目の前にはペンションさながらの丸太小屋。

 天井から突き出た煙突からはモクモクと煙が出ており、目の前の小屋が空き家で無い事を示していた。


 得に罠の類がない事を確認した僕は、ゆっくりと進み出てドアをノックする。

 すると、パタパタとした足音が小屋の中から聞こえ、暫くして目の前の扉が少しだけ開かれた。


「誰?」


 顔を出したのは緑髪の男の子。

 こちらを警戒しているようだ。

 まあ、当然か。


「ここはデング様の住まいで宜しいでしょうか?」


 少年は僕たちを見回し、黙って頷く。

 もしや、彼がそうなのか。


「僕たちは森の外から赤熱病の薬を求めてやってきました。連れと知人が病にかかり困っています。是非とも薬を分けて頂きたいのですが……」


 すると、少年はゆっくりと扉を開け、僕らの前に姿を現した。

 その額には一本の角。

 どうやら人間とは種族が違うようだ。


「もしや、彼方がデング様ですか?」


 目の前の少年は僕の問いに首を横に振って否定する。

 そして、一瞬意味ありげに目を伏せ、


「待ってて。今呼んでくる」


 それだけ言い残すと、小屋の奥に消えていった。




「これで何とか間に合いそうだね」


 ミウが安堵のため息を漏らす。

 でも、タダでくれるとは限らないよな。

 勿論、待っているミサキの為にも多少不利な条件でも受け入れるつもりだが。

 

 そして待つこと数分、少年は赤ら顔の男を連れて再び僕らの前に現れた。

 なるほど、デングと言うだけあってイメージ通り、その鼻は逆カーブを描くように長くそそり立っている。

 彼はギョロリとした目だけを動かし、僕たちをジロジロと見まわしている。

 その目玉は、僕の隣にいたミミューを認めてピタリと止まる。


「この、クソ動物が!!」


 何が起こったか一瞬理解できなかった。

 だが、宙に舞うミミューを見て僕の脳が確信する。

 彼がミミューを蹴ったのだと。


「な、何を!?」


「ふん! 折角辿り着く道を限定しておいたのに余計な事をしやがって! 全く、煩わしい!」


 地面に落下、倒れて動かないミミューをミウが抱きかかえる。

 僕はデングとやらをキッと睨む。

 それに対し、デングはふん!と鼻を鳴らして僕に言い放つ。


「何だ、その目は? どうせお前も薬を求めてやってきたのだろう? 俺に何かしたら手に入らんぞ? もっとも、そうしなくともおいそれと譲る気は無いがな。帰れ帰れ!」


 デングはつまらなそうに手をひらひらさせ、僕らを蠅のように追い払う。

 そして背を向けると、さっさと小屋の中に引っ込んでしまった。


 緑髪の少年は申し訳なさそうにぺこりと軽くお辞儀をすると、デングの後について行く。

 その場に残された僕らは――。


「やった! 息を吹き返したよ!」


 ミウが治癒魔法をかけ続けた甲斐あって、ミミューが目をパチクリさせて起き上がる。

 ミミューは現状を確認するかのようにきょろきょろと周りを見回し、


「キキューッ!」


「ううん、礼はいらないよ。こちらが連れて来てもらったんだから」


 ミウとの間で何気に会話が出来ているが、そんな事はどうでも良い。

 ともかく無事で良かった。

 だが、この喜びもつかの間であることを僕は理解している。

 何せ、根本的な事が解決できていないのだから。


「酷い事するよね! これでミサキの事が無ければぶっとばしてやるんだけど!」


 迫力には些か欠けるが、ミウが本気で怒っている。

 勿論、僕も気持ちは同じだ。

 だが、問題はミウの言う通り、どうしても薬を持ち帰らねばならないということ。

 さて、これからどうするか?


 その答えを求め、頭の中で問いかけるも明確な回答は出ず、事態は暗礁に乗り上げるのだった。




最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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