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第167話 案内人?

お待たせいたしました。

 見通しの悪い森の中を、アリアの方向感覚を頼りにただひたすらと進む。

 変わらない景色、その中にあっての唯一の状況の変化は、襲ってくる魔物によってもたらされる戦闘のみ。

 さて、本当に目的地に近付いているのだろうか?


「アリア、少し休もうか」


 僕は先頭にいるアリアに声をかける。

 いくら急ぎとはいえ休息は大事。

 身体は疲れていなくとも、精神的な疲れってのもあるから注意が必要だ。


「えっ!? ご飯! やったあ!」


 ミウの頭の中では休息イコール食事の方程式が構築されているようだ。

 そんなにお腹が空いていたなら、もっと早く言ってくれればいいのに。


 そんなミウのリクエスト通りの食事休憩。

 その用意はいたって簡単。

 地面にシートを敷き、前もって保存してある弁当箱を巾着から取り出すだけだ。

 出来立ての料理、しかも味は言うこと無し。

 以前、通常の冒険者が食べる保存食を試しに食べてみたが、パサパサしている物、やけに塩辛い物など味に関しては散々たるモノだった。

 一緒に食べたミウもしかめっ面を浮かべていたのを覚えている。

 そう考えると、僕たちはかなり恵まれた環境にいることになる。


「「「いただきます!」」」


 弁当箱に入っている煮物を一口。

 薄味だがしっかりと出汁が効いているそれは、日本人としてはとても懐かしく感じる味。

 炊き立てのご飯との相性は抜群だ。


「やっぱりおいしい食事って大事だよね」


 ミウが幸せそうな笑顔でうんうんと頷く。

 もしかしたらミウもあの時の保存食の事を思い出していたのかもしれない。



 そして、僕たちはあっと言う間にお弁当を平らげ、お楽しみのデザートの時間へと移る。

 僕は巾着を探り、それを取り出し中央に置く。


「わあっ! 桃だ〜♪」


 イデア特産の良く熟れた桃を前に、ミウは待ちきれなさそうに身を乗り出す。


「うん。今剥くからちょっと待って」


 ナイフを取り出し、今まさに桃を手に取ろうとしたその時。


「!? 上か!?」


 何者かの気配を察知し僕は急遽身構える。

 それは木の上から僕ら目掛けて落下してきた。

 いや、狙いは僕らでは無くて……。


「キキューッ!」


「あっ! 駄目っ!」


 その生物は後ろ足で桃を掴み、僕らの目の前から見事にかっさらっていく。

 そして、そのまま滑空の勢いを衰えさせることなく、飛膜を広げて弧を描く様に再び上昇、正面の大木の枝へと乗り移った。


「こら〜! ミウのデザート返せ〜!」


「キキュ? キキキッ!」


 ふさふさした薄茶色と白の毛に覆われたそのムササビのような動物は、つぶらな瞳で木の上からこちらを窺っている。


「ミミューなの。珍しいの」


「へえ、珍しい動物なのかい?」


 僕はアリアに問いかける。


「人間の乱獲であまり見なくなったの」


「なるほど……」


 見た目からしてなめらかそうな手触りの毛に可愛らしい容姿。

 そこら辺が人間の欲望に火をつけたといったとこだろうか。


「う〜っ! そんな事より、大事なのはミウのデザートだよっ!」


 ミウがくりくりした目で僕を睨む。


「まあまあ、ミウ。まだあるから」


 僕はミウを宥めつつ巾着を探る。


「ん!? あれ? ……無いな」


「え〜っ!?」


「キキキッ!」


 ミウの大声に反応し、ミミューが桃を抱えて逃げ出す。

 枝から枝へ飛び移るその動きは素早い。


「カナタ! 追うよ!!」


「ちょっ!」


 僕の返事を待たずにミウが駆け出す。

 僕は敷いてあったシートをくしゃくしゃに畳んで仕舞いつつ、その後を追った。


「ミウちゃん。矢を使う?」


「ううん。それは可哀想」


 そんな会話をしつつ、ミウとアリアはミミューを追いかける。

 そして、その後を何とかついて行く僕。

 小回りの利くミウ、そして森が庭であるアリアだから仕方が無いとはいえ、少し情けない。


「あれ!? 消えた?」


 突如、ミウが疾走を止め、その場に立ち止まる。


「見失ったの、ミウちゃん?」


 アリアの問いかけにミウは首を横に振る。


「ううん。まだだよ、アリア。ミウの探知能力、この場面に使わなかったらいつ使う!」


 いや、他に使いどころはあると思うが……。

 そんな僕の心の声を余所に、ミウは目を瞑り、静かに気配を探り始める。


「………………見つけた!!」


 ミウはゆっくりとその気配の元へと歩んでいく。

 そして辿り着いた先。

 僕はミウの肩越しにその光景を見た。




 そこには先程のミミューとその子供と思われるミミューが数匹。

 子供の手には例の桃が握られている。

 親ミミューがこちらに気がついたようで、子供を背に隠すように立ち、こちらを警戒している。


「ミウ?」


 立ち尽くしたまま動かないミウに対し、僕が声をかける。

 ミウは小さく息を吐き、


「う〜ん、仕方ないね。帰ったらまた食べればいいや」


 すっきりした表情のミウ。

 まあ、流石にこの光景を見せられてはね。


「あげるよ、それ」


 ミウは親ミミューに語りかける。

 すると、親ミミューが軽く会釈をするかのように首を縦に振る。

 ……まさかね。

 

「さあ、カナタ、アリア! 行くよ、デング様の所に!」


 気持ちが吹っ切れたのか、ミウは元気よく僕とアリアに出発を促す。

 こうして、僕たちは再びデング様の元を目指す――。


「ん!?」


 ふと、僕は足元に引っかかりを感じた。

 見ると、そこには先程のミミューが小さな手で僕のズボンの裾を握っていた。


「キキキッ! キキュー!」


 裾をグイグイと引っ張る親ミミュー。

 そして、身振り手振りで何かを伝えようとしているかのように手を不規則に動かす。


「ついて来いって言ってるみたいなの」


 アリアの言葉に親ミミューはコクリと頷いた。

 まさか、言葉がわかるのか?


「よし、ついて行ってみようよ!」


 ミウの言葉にアリアも頷く。

 その時点で僕たちの行動は多数決で決まりだ。

 まあ、僕は反対はしていないけどね。


 ミミューは大木の幹を駆け上がり、その枝の先に乗ると、


「キキキッ!」


 先程とは違ったゆっくりとした足取り?で枝から枝に飛び移る。

 そして、くるりと僕たちの方を振り向いた。


「ほら、ついて来いって言ってるよ」


 僕たちは桃を美味しそうに食べている子ミミューたちに別れを告げ、親ミミューの後をついて行くのだった。




最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

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